論 考

日韓合意の違和感

 2015年の年末に突然出された、いわゆる元慰安婦問題の日韓合意についての韓国民間専門家の報告書が出された。

 わが新聞は概ね外交決着したことを蒸し返すのは怪しからんという論調である。それはもちろんそうなのだが、当時の事情を見ておこう。

 第一に、被害者は無視されての合意で、法的に名誉回復せよという抗議の声が上がっていた。

 第二に、「不可逆」というような表現を入れたことには極めて違和感が強かった。(もちろんいまもである)

 要するに韓国政府が国民的感情を代表しているかどうかの疑問が大きかった。

 李明博大統領時代の11年から日韓関係は悪化しており、ほぼ断交状態に近かった。15年年初に、朴大統領は「日本の姿勢の変化が必要」と語っていた。同4月に米ラッセル国務次官補が日韓和解を主張して後押しした動きもある。

 外務省が交渉するのではなく、朴大統領秘書室長の李丙琪と、安全保障局長の谷内正太郎が交渉に当たったのも、背後にアメリカの動きがあったことを想像させる。

 日韓関係改善はもちろん好ましいが、もともと問題の本質が国民的感情を抜きには考えられないにもかかわらず、それを十分に斟酌せずに走ったために、事実、両国関係はさしたる前進をみていない。

 しかも合意内容はどう考えても韓国側の譲歩が大きい。その大きな譲歩は、なにと交換されたのかという疑問が残る。

 国と国とが決めたことを蒸し返すなという正論ではあっても、極めて日本的都合だけを押し出すのは考えものであろう。