筆者 高井潔司(たかい・きよし)
ベネズエラの現職大統領がアメリカに拉致された。いくら独裁者で、麻薬輸出の疑いがあるとはいえ、国際法を無視し、軍事力を行使して上での逮捕は拉致としか言いようがない。アメリカの他国への内政干渉の失敗の歴史については、すでに奥井先生が書かれているので、私はこの問題に対する高市政権の姿勢について議論してみたい。
5日付けの読売新聞は2面で「高市氏支持も批判もせず」との見出しで、高市首相がベネズエラ情勢について、自身のX(旧ツイッター)に「情勢の安定化に向けた外交努力を進める」と投稿したと報じた。また同じ記事で、外務省報道官談話が「我が国は国際法の原則の尊重を重視してきた」と一般論を述べるにとどめたとし、「国際法に反すると米国を批判する国もあるが、米国との同盟関係に配慮したためとみられる」とコメントしている。また翌日の読売によると、高市首相は伊勢神宮参拝後の記者会見でベネズエラ情勢について「関係国と緊密に連携し、ベネズエラにおける民主主義の回復、情勢の安定化に向けた外交努力を進めていく」と述べたという。
歴代首相に比べ、言語明瞭を売りにしてきたはずだが、この問題に関しては全く事態をどう考え、どう対応するのか、さっぱりわからない。「外交努力を進める」とは一体どんな努力なんだろう。全く意味不明だ。遠い国のこと、「ドンロー主義」の下、トランプ大統領が自国の庭で起こしていることだから、日本と関係ないとでも考えているのだろうか。そうではないだろう、同盟国として頼り切っているアメリカには何も言えないというのが、本音である。「強い国作り」をスローガンにする人たちだが、何のことはない、アメリカ追随主義者でしかないことを証明している。
ベネズエラでアメリカがしでかしたことは、日本にとって大きな影響がある。目下、国際情勢は、欧州ではロシアによるウクライナ侵攻、アジアでは台湾統一を目指す中国の軍事力拡大と演習の実施で緊張は高まるばかりだ。これに対し、日本は「法と秩序の順守」をスローガンに、力による現状変更の試みに強く反対し、関係国にも呼び掛けて対応してきた。
今回のアメリカの行動はまさに法と秩序を無視し、力による現状変更であり、これに何らコメントしないことは、これまでの日本の姿勢と大きく矛盾し、ダブルスタンダード(二重基準)のそしりをまぬかれない。
目下アジアにおいて、高市首相の発言から中台関係が緊張度を増している。アメリカの行動を許容していたら、中国に武力統一という野望にチャンスを与えかねない。アメリカの行動などより、中国には「一つの中国」というもっともらしい「大義名分」があるのだ。
親米寄りの社説が多い読売でさえ、5日付けの社説で、「『力による平和』を掲げるトランプ政権が、自国の権益拡大のために軍事行動に出た影響は中南米にとどまらない。中国やロシアによる一方的な現状変更の動きを助長させかねない」とし、「米中露などの軍事大国が勢力争いを激化させ、国際法より軍事力を優先して他国の主権を脅かすことになれば、国際秩序は崩壊する。日本は欧州とも連携し、国際法を順守する立場を訴えるべきだ」と主張している。
トランプ大統領のウクライナ戦争やガザ紛争の調停の姿勢を見ると、トランプ外交は強者優先、大国間のディールである。アジアでもそのようなディールが行われるようになったら、地域の安全環境の先行きは不透明、混迷を極めることになる。アメリカ追随ではない、日本独自の外交戦略を構想していく必要がある。
新聞報道を見ていて、わずかな救いは、「自民党の小野寺五典・安全保障調査会長は4日、みずからのXに『力による現状変更』そのもので、中露を非難する論拠に矛盾する指摘」とあったこと位だ。
