NO.1644
女性初の自民党総裁、総理大臣に高市氏が就任したが、「ガラスの天井」を破ったというブームは起きなかった。
「ガラスの天井」という言葉は、1978年に初登場した。1995年、アメリカ議会で公民権法修正のために設けられたGlass Ceiling Commissionが最終報告書で、「目に見えないが打破することのできない障壁で、資格や実績があっても女性やマイノリティーをキャリアの階段の上層部から締め出す役割をしている」のが「ガラスの天井」だと規定した。
これを国際労働機関ILOが指標として使うようになり世界中に広まった。2016年大統領選挙で、ヒラリー・クリントンの演説でも大きな話題になった。もともと企業組織の内部文化として扱われたが、政治的・社会的に男女差別問題とみられている。
土井たか子人気によるマドンナブームや、小池百合子都知事の登場もあった。男女平等は緩やかであるが前進している。一方、さまざまのキャンペーンの割には、社会にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が根強い。
高市氏はヒラリーのような主張はしなかった。ハンディキャップを「自分の選挙」に使わなかった! のは一つの見識だ。もちろん彼女は、女性やマイナーのために闘うような思想ではなかろう。だから、男女平等の活動している人々も冷めているようだ。
「ガラスの崖」という言葉もある。危機的状況においては、男性よりも女性がリーダーの地位に就きやすいという。ただし、確たる証拠があるわけではない。これは男女差別が前提になっている。そうであれば、男連中が腰抜けばかりで、火中の栗を拾う性根がないことになる。
もちろん、立派な自民党は情けない連中ではない。大挙立候補して総裁選が戦われ、錚々たる顔ぶれを制して高市氏が自民党総裁の座を獲得した。この形はノンコンシャス・バイアスをものともせず、女性が男性を凌駕したというお手柄である。
古代ギリシャのアリストパーネス原作『女の平和』(前411初演)という喜劇がある。原題は『リューシストラテー』(軍隊解体者)で、女性主人公の名前である。アテナイとスパルタが雌雄をかけたペロポネソス戦争(前431~前404)がモデルである。戦争を終わらせるためにアテナイとスパルタの女性が結束して、セックス・ストライキを敢行し、めでたく平和を獲得する。
その2千年後1970年、アイスランドにレッド・ストッキングという女性運動が立ち上がった。75年10月24日国際女性デーに、「女性の休日」ストライキで、女性が家事を放棄して大集会を成功させた。世界初女性大統領フィンボガドゥティル氏も登庁せず。85年に2度目の「女性の休日」を決行した。
86年、レーガンとゴルバチョフのレイキャビク会談は同大統領の主宰であった。会談で東西冷戦が終焉に向かい、89年、ブッシュ(父)とゴルバチョフのマルタ会談で冷戦終結。同11月、61年から築かれたベルリンの壁が破壊され、90年、ドイツが再統一された。世界中が感激に満たされた記憶は鮮明である。
高市氏に『女の平和』日本版を期待するのではないが、台湾有事の発言は軽すぎた。台湾有事が法的にわが国の存立危機事態になると考えているらしいが、大間違い。台湾は国連の集団的自衛権を行使できる加盟国ではない。国連加盟国は中国であり、一つの中国が前提である。中国が怒るのは、あまりにも無頓着に内政問題に手を突っ込んだからである。まるで『女の戦争』だ。
高市氏が、質問があったから答えたと逃げを打っても、勉強不足は否定できない。その後始末もできない。かくして、破るべきは「ガラスの天井」にあらず、「間抜けの天井」と言うしかない。
