論 考

どっこい生きている

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 面白くもない記事ばかりである。まさに新聞は濡れ雑巾だ。乾いた雑巾になれと注文しても、現実に発生するニュースがろくでもないのだから仕方がない。

 ガザ停戦、ハマスとイスラエルが和平案の第一段階に合意した。パレスチナはもとより、イスラエルも市民が街頭に繰り出して歓喜の表情だ。これほど、人々が戦火を嫌っていたにもかかわらず、国家権力を握っている連中は戦争したがる。連中につける薬はない、残念ながら。

 トランプがネタニヤフを抑えたのは、9月9日のイスラエル軍によるカタールの空爆だったようだ。トランプは直ちに不満を表明し、9月23日には、国連総会で訪米した、サウジ、トルコ、カタールなどの首脳らと相次いで会談し、9月29日にはネタニヤフにカタール外相に電話で謝罪させた。

 恒久的停戦まで、飽きっぽいトランプがきちんと面倒見るかどうかはわからないが、とりあえずは上等だ。

 一説には、トランプはノーベル平和賞ほしさに切羽詰まって行動したというが、もちろん、それだけではなかろう。

 ほとんど自己中毒の権化みたいな人間だから、それだけ損得関係には敏感だ。すでにイスラエルが国際的孤立を深めていたことは知っていただろう。それだけではない。トランプのアメリカが支援しなければイスラエルの戦争継続は無理だ。世界中の多くの人々が、トランプとネタニヤフは同罪だと見る。トランプも潮時だと判断したのだろう。

 手柄顔しても、明らかにtoo lateだ。ガザの人々を追い出して、不動産開発するというバカな構想を発表した事実は消えない。その後も、あまりにも多くのガザ市民が殺傷されたのだから。

 イスラエルも兵士1150人以上が死亡、負傷は2万人以上だ。そのうちの56%が精神的問題を抱えているという。市民間の厭戦気運が高まっている。

 よほど凝り固まった人間でなければ、ハマスが引き起こしたテロ行為がイスラエルの圧制圧迫に対する独立戦争だという事実を知っている。なんとも寝覚めの悪い戦争を少しでも早く終えてほしいのは当然である。

 報道は、権力支配者の動向ばかりであるが、和平案が合意されたのは、やはり、パレスチナ、イスラエルだけではなく、世界中の市民の抗議の意志だったと見るべきだろう。

 アメリカでは、9月12日のトランプ右翼チャーリー・カーク銃殺事件をめぐって、ABCテレビの「ジミー・キンメル・ライブ」のスポンサーであるディズニーが放送休止を宣言した。

 連邦通信委員会FCCのブレダン・カー委員長が、トランプの意を受けて、テレビの公共性を盾に、放映許可を取り上げる恫喝をかけたからである。

 問題にされたキンメルの発言は、「MAGA一味が、カーク銃殺事件を利用して、政治的メリットを稼ごうとしている」という内容で、トランプはじめ、犯行を民主主義者の陰謀のように政治的に利用しているという痛烈な批判であった。

 ビビったディズニーが放送休止判断をしたのだが、市民は直ちに、言論の自由を守れ・検閲反対の声を上げた。ディズニー・スタジオ前のデモや、ディズニーのチケットをキャンセルする動きも華々しかった。ディズニー株の時価総額は一挙に40億ドルも縮んだ。ディズニーは今度は、急ぎ番組再開を表明した。

 トランプの派手な立ち回りで、アメリカのデモクラシーがどうなったのか心配する人は多い。トランプが好き放題やっているのは事実だが、キンメルの番組再開の動きは、間違いなく、市民とメディアが抵抗して勝利したといえる。

 ガザ和平段階への一歩と、キンメル番組再開は、アメリカ市民のデモクラシー意識は健在であることの証明だと見よう。