筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
ニューヨーク在住・津山恵子さんのアメリカメディア事情報告(朝日新聞)を、わたしはいつも注目している。
今日は、トランプ暴政の影響について書いている。昨年春、ノーベル賞経済学者コロンビア大学ステグリッツ教授が、トランプは民主主義的なプロセスにコミットしておらず、法の支配を弱体化させることにコミットしていると危機感をあらわにしていた。いま、それが非常に深刻な段階にまで進んでいると述懐しつつ報告している。
邦字紙を読んでいるだけでもトランプのはちゃめちゃな行動ぶりが十二分にわかっているが、その社会の中に自分がいないと、わかったような気がするだけだ。
トランプの攻撃は、人々の信頼が厚い主要メディアや大学を真正面から攻撃している。たとえば、CBSやABCに難癖をつけて民事訴訟を起こす。長い法廷闘争を引きずって、攻撃材料にされたくはないから、CBSもABCも巨額の和解金を支払って、法廷闘争を回避した。
難癖に対して和解金を支払うなど、はやくいえばヤクザにみかじめ料を渡して丸く収めるのと同じだ。そういう対応は当面緊急避難としてありうるが、ヤクザを非難するよりも、自分もやられてはかなわんという気風を醸成する。
ハーバード大学が補助金削減にも負けず対抗しているが、キャンパスが不安全だという雰囲気が作られてきた。
津山さんによれば、市民は、言論・報道・表現・学問の自由が急速に後退する事態によって、経験したことのない危機を目撃して茫然としている! という。報道の人々が社会的使命感を燃やして報道し続けるとしても、報道自体が身の安全を脅かされる事態だから深刻極まりない。
アメリカの最大の危機は、本来、憲法によって掣肘を受けるはずの権力が、トランプによって社会支配の道具に堕落させられ、個人は、権力によって簡単に排除される対象になっている。気ちがいに刃物のたとえは、トランプに権力というほうがなおさら切実だ。
アメリカの民主主義を再建するのは、非常に困難な時期にある。わが国の政治家諸君が、選挙戦の勝利だけしか頭になく、能天気な発言を繰り広げているのを見ると、つくづく、人々が危機だと気づいたときは時すでに遅しという言葉を予防薬として服用したいのである。
