週刊RO通信

真偽顛倒・玉石混交 さて、その先は?

NO.1622

 参議院議員選挙が7月3日公示され、20日投開票に向けて選挙戦が繰り広げられている。大から小まで古参新参入り混じり、群雄割拠か、それとも玉石混交というべきか。いわく、なかなか定めがたい。これがおおかたのみなさんの偽らざる感想だと思われる。

 わたしは党首演説の動画を見ていると、新参であるにもかかわらず、モノクロフィルムが巻き戻されて、かつての大陸浪人よろしく熱弁をふるっているような奇妙な錯覚にとらわれた。あるいは、ビヤホール談義が押し出されて、問題解決するための緻密な理論構築がなされず、人々の不満をあおるアジテーションになっているのが気がかりだ。

 読売新聞は、「信頼に足る政党を見定めたい」と社説(7/4)を掲げた。今回の選挙は、バラマキ、各党思惑バラバラだ。本来なら、物価対策が最大の論争点ということになるが、その背後にそびえる社会保障問題について、いずれの政党も見どころのある発言がない。その結果、バラマキ・バラバラで政策論争中身スカスカといいたくなる。

 思想家・林達夫(1896~1984)は、大正のデモクラシー気運がみなぎる学生生活、満州事変(1931)から日中戦争(1937)、太平洋戦争(1941)、そして無条件降伏(1945)をすべて全身で体験した一人である。そこから、自分の研究活動だけでなく社会人としての思想として、次のような含蓄ある言葉を残した。

 ――不確かな事実に立脚した理論の危うさを、戦争のなかで嫌というほど思い知らされた。戦後になって、実証主義を生かそうと始めた。――

 信頼に足る政党の見定めは、まさにこういう視点が不可欠であろう。

 国の針路というなら、当然ながら税制、財政、社会保障、外交を考える。前3つは、国民を社会的・物質的に網の目のように組み合わせる柱であり、これらが万一ガタガタになると容易に立ち直れない。外に目をやれば、国民国家の形成をめぐって、いかに多くの国々の人々が苦労しているか。

 安倍内閣時代には、経済が回る、実は株価が上がればいいとする乱暴な政治が8年も続いた。財政問題はまるで顧慮せず、国債発行無限大のような意識を蔓延させた。安倍自身のスキャンダルは、自民党が強大だったから、国会で追及しても潰しおおせた。その結果、国会で本来審議するべき課題が放置されたことを忘れるわけにはいくまい。

 安倍プーチン会談も28回おこなったはずだが、北方領土返還の見込みがあるとした理由は何か。華麗なる外交ゲームを楽しんだだけではないか。外交は政府専権という気風で、国会でのきちんとした説明は一度もなかった。

 いま、トランプが無理難題好き放題の立ち回りをしているが、単純に、それでもついて行きます下駄の雪をやるのか。防衛費の積み上げは中長期的に見て、確実に日本の国力を落とす。もう少しで、社会保障がノッキングを引き起こす危険な領域に入っている。

 日英同盟を締結したのは1902年であった。同盟締結でちょうちん行列する国内を見て、英国留学中の漱石さんは、みっともないと記した。英国がダントツ格下の日本と同盟を結んだのは、アジアにおける対ロシアの番犬とするためだった。いま、日米は対等だというが、内向きに突き進むトランプを相手に、雪が下駄の向きを変えさせられるのか。

 選挙戦は野党全体が押せ押せムード。前半の情勢からすれば、野党に政権交代論が盛り上がりそうなものだが、まるでその気配がない。自民の敵失で野党が伸びる。自民大敗した場合、伸びた野党がよたよた自民党を支えるという麗しい助け合い国会が生まれるのだろうか?

 政治が難局にあることは事実である。野田氏は、ホップ、ステップで、その次にジャンプをすると語るが、少なくともいまは政権交代への覇気がない。なるほど時節到来を待って力を蓄えるのは大事である。しかし、自民党はガタガタになるかもしれない。とすれば、野党は悠長過ぎるのではないか。

 まさか、野党の諸君は弱体与党下で、自党の勢力が安定成長できるならばすべてよしと考えているのではないだろう。いまこそ、われわれが船頭になるという覚悟と気迫があるか。惰眠を貪っているときではない。