論 考

嘘話が跋扈する

筆者 小川秀人(おがわ・ひでと)

 この異常ともいえる情報過多の時代にあって、その真偽の見極めは、我々が生活者として身を守るためにも重要なスキルの一つであろう。最近は殊にオールドメディアの偏向報道ぶりを批判する向きもあるが、かたより方にかけてはニューメディアも50歩100歩の話。まずもって、どちらも自社の主張に都合の良いデータしか示さない。世の中では呼吸をするかのごとく、悪意を持った特定方向へのイデオロギー誘導合戦が繰り広げられている。

 これはメディアに限ったことではない。政財界もアカデミズムも、一般社団法人も特定非営利活動法人も、そして労働界も然り。というか、新旧メディアが垂れ流す偏向情報に各界が自分の主張に都合良く便乗している、と言ったほうが正確だろう。数式で表せば、「(自分の主張に都合の良い情報)の二乗」。そこに、それぞれの御用学者や提灯持ちがへばり付くとことさらタチが悪い。

 その典型例を、先日の衆議院法務委員会における「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案(通称:選択的夫婦別氏制度)」の審議に見てしまったが、それでも努めて冷静に、事実を基に議論や反駁を試みる参考人がごく少数でもいたことが幸い。何か足りないとすれば、単に法案に賛成か反対か、ではなく「現状のままで良い」と主張するようなサイレントマジョリティ(静かなる大衆)を代表する参考人がいても良かったのではないか。

【日本は外国人労働者から選ばれない国】論は本当か?

 メディアの報道ぶりは総じてこうだ。「日本は円安で相対的に賃金が下がって魅力が無くなってしまった。いまや外国人労働者は韓国やオーストラリアに向かっており、日本は選ばれない国になっている」。

 ファクトを確認したい。信憑性が高いと思われる法務省(入管庁)のデータの中から、旅行などの短期滞在(90日以下)を除く在留外国人数の令和元年~同6年までの変化を見ると、一貫してどの数字も増えているし、前年比でも増加している。しかも、経営・管理、高度専門職、技術・人文知識・国際業務、特定技能、技能実習などの就労資格を持って入国している外国人数は過去最高を記録している。

 確かに、2022年に始まった急激な円安により相対的な賃金が下がった結果、日本以外の国を選んだ外国人労働者がいるであろうことは容易に想像がつくし、データを見てもそれが確認できる。ベトナムがその典型で、技能実習生は相当数減少しているものの、それを上回る勢いで他の国からの技能実習生が多数入国している。つまり、国が入れ替わっているのであって、「選ばれない国」は事実誤認としか言いようがない。

 メディアの皆さん、これはいったい何の自虐ネタでしょうか?