NO.1619
6月13日未明、イスラエルがイランを奇襲攻撃した。15日にイランとアメリカがオマーンで核協議する予定であった。ネタニヤフは、イランの核開発が脅威であるから、核開発計画を妨害し、危険を遠ざけるという。核協議外交を妨害した。脅威が取り除かれるまで作戦を続けるという。
イスラエルが攻撃したのは、核施設、軍事施設などである。イラン革命防衛隊司令官、参謀総長や、核開発科学者数人が殺害された。イスラエルのスパイ(モサド工作員)が以前からイランに侵入し、さまざまな工作をやってきた。今回の作戦計画も数年前から準備してきたようだ。
ネタニヤフはイラン国民に向けて、「あなたがたの解放の日は近いと信じている」と呼びかけた。体制転覆の決起を促したともみられる。しかし、イラン人の反イスラエル感情は強い。
アメリカは、イスラエルから事前に情報を得ていたが黙認した。トランプは、イスラエルの奇襲攻撃を、「すばらしい。(イランに対して)チャンスを与えたのに応じないから大きな打撃を受けた」とコメントした。
イランは同日夜、報復としてイスラエルの軍事施設などをミサイル攻撃した。今後、イラン・イスラエル戦争が本格的に拡大する恐れは十分にある。
イスラエルの奇襲攻撃は、自衛権に当たらず、国連憲章違反だ。なぜこの時期に攻撃したのか。数年前から準備していたようだから、攻撃する体制ができたからであろうが、パレスチナのガザにおける戦闘で、破壊と殺戮をし尽くしたので、局面を転換するためにイラン攻撃に転じたのではないか。
なぜなら、ネタニヤフのイスラエルは、典型的な軍国主義国家である。つねに戦争していなければならない体質になっている。
彼は通算で20年近く首相の地位にあるが、いまでは退陣せよという声は小さくない。戦争しているからこそ、権力の座を確保できる。2022年総選挙後の首班指名も、極右宗教政党との連立でなんとか実現した。
ネタニヤフは一貫してパレスチナ国家を認めない立場であるが、極右宗教政党の議論はもっと激しい。パレスチナをせん滅するまで暴れるという考えだから始末がわるい。ネタニヤフが連立によって政権を維持するためには、極右宗教政党の支持を外せない。ますます戦争から逃げられない。また、戦争をしているからこそ、ネタニヤフは国民の批判を逸らしている。
ネタニヤフはトランプの平和路線(?)に反する。トランプはネタニヤフを操れるだろうか。いや、むしろアメリカの歴代政権はネタニヤフに操られてきた感が強い。ブッシュのイラク戦争の黒幕はネタニヤフだった。
アメリカは、1990年ソ連崩壊以後、世界支配はわがものだと考えて行動してきた。他国の意見や国際的義務、国連の枠組みなど考慮せず、トランプに至っては国連を崩壊させる懸念がある。かつては、反共十字軍を任じ、湾岸戦争以後はテロせん滅論の好戦主義に立ち入ってもいる。
アメリカに平和戦略があるだろうか。あきらかに違う。以前はオブラートに包まれていたが、いま、とくにトランプは露骨にアメリカ第一を吠えている。トランプは極端だが、以前からアメリカは国際平和の旗手たろうとしたのではない。本音は、アメリカによる世界支配である。
その戦略に基づいて歴代政権は、自己陣営の安全保障論を押し出し、世界平和や他国の犠牲は顧みずにやってきた。さんざん内外の批判を食らったベトナム戦争後も、反省して世界平和に邁進するのではなく、ほとぼりが冷めるのを待って、巨大な宣伝力を駆使して、自国の世界支配を合理化してきた。
アメリカは巨大な軍事国家である。核維持体制にせよ、軍事産業にせよ、それを支えるのは破格の金と人的資源である。軍事を必要としない世界をめざすような心がけはほとんどない。戦力に頼る平和維持自体が反平和主義思想である。だからアメリカとイスラエルは一蓮托生の戦争国家である。
戦争は、民主主義の基本的価値である人間の尊厳、理性、寛容に敵対する。戦争は暴力の正当化に他ならない。アメリカは世界一繁栄する国のはずだが、国内に膨大な無力感、退廃的傾向が渦巻いている。本当のところ、世界平和の推進力たる民主主義ではないことが露呈している。われわれが、まともな国であるためには、国連活動をなんとしても支えねばならない。