筆者 高井潔司(たかい・きよし)
「令和の米騒動」が続いている。国会では、小泉・新農相の備蓄米の緊急放出をめぐって、野党の党首まで投入して委員会質問が行われた。しかし、テレビ報道を見る限り、農相の意気込みに気おされたのか、野党の質問は的外ればかり。夏の参院選の結果次第で政権交代もささやかれる中、報道を見る限り、野党の政権運営能力に疑問を感じた。
立憲民主党の野田代表は「バナナのたたき売りじゃないんだから、これは適正価格と言えるのか」と、年金問題追及時の「あんぱん」同様、わかりやすい表現を使って批判したが、対案も示していないので、「生産者にとっては、適正な価格ではないが、備蓄米を卸す価格としては適正だ」と答えられ、テレビ報道ではそれ以上の追及はなかった。続いて同じ党の女性議員は、「2000円台の米と4000円台の銘柄米が同じ棚に並んでどうなるか」と質問したが、どんな回答を引き出そうとしているのか、質問の趣旨が全くわからない。「消費者の選択肢が増えるのでは」との答弁でこれまた沈没。
国民民主党の玉木代表は、「1年たったら動物の餌になるようなもの。そりゃ安く出ますよ」と、古古古米の放出に冷や水を浴びせた。前回の私の論考では、「3000円台が実現しなかったら総理は責任を取るか」という玉木代表の発言を、ハードルの下げ過ぎと批判したが、玉木代表の今回の発言は、前回の自身の発言を弁護するだけの意味しかないと私は感じた。エサ米発言は与野党から批判を浴び、小泉農相も同じ趣旨の発言をしたと言い逃れに終始し、自身にみそを付けた格好だ。
読売新聞報道では、玉木代表は、「増産というメッセージを出すことが米価格高騰の解決策になる」と主張したそうだ。メッセージを出すことで解決策になるなら誰も苦労しないだろう。そもそも増産と言っても急に出来ない事は常識であろう。目の前の価格高騰対策の対案にはならないのは当たり前だ。対案を示さず、何でも反対の野党を飛び出し、政権党を目指すというには、何とも心もとない。
野党の質問に共通して欠けているのは、すでに全国農業協同組合に放出した備蓄米の行方の問題だ。依然としてほとんど小売市場に出回っていない。小泉農相もこれに全く手を付けず、話題にさえしない。なぜ市場に出ないのか、政府はその扱いをどうするのか。こんな単純な疑問がどうして議論されないのか。マスコミも「目詰まり」などとあいまいな表現を使って触れているが、「売り惜しみ」の疑いは濃厚ではないのか。もちろんそれは憶測だから、野党も、マスコミも野党も真相を明らかにしてほしい。
読売解説によると、首相が出席しない委員会審議で野党の党首が出席するのは異例だそうで、「国民の関心の高い米の価格高騰や供給不足への対応が、夏の参院選の主要争点の一つになるとみているためだ。……自民の支持基盤となっている農業従事者などの『農業票』を切り崩す狙いもある」という。それなら、小泉農相の緊急放出に冷や水を浴びせるよりも、JAに忖度せず、堂々と正面から農政改革を論じてもらいたかった。
読売解説は、「立民幹部は『狙い通りに米価が下がれば政府・与党への逆風が収まりかねない』と警戒感をあらわにしている」と結んでいる。さもありなん。