論 考

電話が怖い!

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 会社社会で、若い人たちが、電話が怖いという。この話題が、わたしは気になる。

 電話も仕事の一部だ。まだベテランではない。仕事に不慣れで悩むというのはすんなりわかるが、とくに電話が問題視されているのはなぜだろうか。

 自分の経験を振り返る。工場勤務の新米当時、ご指名で電話がかかってくると身構えた。未熟な図面描きだものだから、しばしば間違いを起こす。少し話して、図面を持って現場へ飛び出す。「また、お前か」みたいな調子で、やがて、失敗した場合の謝り方が早いみたいな妙な信用を得た。

 それ以外は、たいがいは仲間からの電話であるから、むしろ電話がくるのが嬉しい。まあ、こんなのは例外で論外だろう。

 問題になるのは外部からの電話だろう。新入りが電話をとるケースが多い。相手が、どんな人か、顔も知らないし、クレームもある。そうでなくても未知の話、込み入った話が少なくないから、身構えてしまう。相手次第、内容次第で柔軟に応答できるベテランには程遠い。

 しかし、自分の担当でなかったり、知らない話であれば、先輩か上司に回せばよい(回さなくはいけない)のだから、その手のことは心配しなくてよい。ひょっとして、そちらと話すのがもっと嫌だということなんだろうか?

 わたしは、これもまた全体のコミュニケーションと無関係ではないと思う。21世紀に入ったころからコミュニケーションの劣化が目立つ。会社へきてから帰るまで同僚とまったく口をきかない人がいるという話を聞くようになった。そうでない人でも、コミュニケーションしなくても仕事ができる。むしろ一人のほうがよいという。

 先端をいく大企業の人事部長が、「わが社の技術者は優秀だが、他者に対する発信力が非常に弱い。これでは全体のレベル向上につながらない」と危機感を表明されたこともある。

 会議を開いても、上司(主催者)以外は黙って聞くだけである。しかし、聞くべきことや言うべきことが全然ないのではない。あとからぶつぶつ言う。

 それから四半世紀過ぎたが、職場のコミュニケーションがよいという話を聞くことはほとんどない。

 コミュニケーションがよくない職場の雰囲気において、若者が外部からの電話を取る。自分が電話の相手にどう思われるかはもちろん、やり取りを聞いている(であろう)周辺の視線ならぬ聴線も十分に気がかりだ。

 隙あらば足を引っ張るとか、油断すると穴に落とす、というような類の職場の雰囲気であれば、たかが電話一本でも怖いという心地になるだろう。

 さらに背景を考えると、幼稚園から大学までお受験時代の卒業生だ。「協力する」という概念よりも「競争する」という概念のほうが染みついているから、「うまくやらねばならない」という自縄自縛に陥っているのではないか。