筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
大統領就任100日の、トランプ支持率は39%、不支持率は55%で、トランプ一派には不本意だろう。しかし、考えてみれば至極当然の結果である。
最大の理由は、経済を悪化させていることだ。関税措置の支持は34%、不支持は64%である。トランプ教信者は、やがて福音がまとめてやってくると期待をかけるが、ものの分かる人であれば、関税の負担をするのが自分たちだということを知っている。
アメリカは土地も資源も潤沢だから、自給自足をやろうとすればできるにしても、儲けることを中心に産業政策を展開した結果がいまの事情である。
交易で、国内はおおいに利益を得ているのに、その上、貿易赤字だけを問題にするのは、商売の論理ではなく、強盗の理屈としか言えない。
移民政策も、支持は46%で、不支持が53%である。トランプ一派は、経済問題よりも、もっと大きな支持を見込んでいたから、横面を張られたようなものである。
政商マスクのDOGE騒動は、さらに大きな不満を生み出した。解雇される公務員だけではなく、そのサービスを当てにしている人々にすれば、唖然とする以上に怒りが収まらない。たとえば退役軍人層から、裏切りだという憤慨の声が上がっている。
大統領令140本、サインするだけではない。トランプにすれば相当のエネルギーを投入してきたから、評価の数字は地雷を踏んだようなものである。
国内だけではない。51番目の州になれと、暴言を重ねた相手のカナダでは、反トランプ・反アメリカの気風が高まった。
カナダの総選挙は4月28日投開票された。直前まで、ポワリエーブルの保守党が、久々に自由党から政権を奪取すると見られていた。ところが、自由党トルドーに代わり首相になったカーニーが、政治経験なしにもかかわらず、保守党との支持率20%の劣勢を撥ね返して、自由党政権維持を確実にした。
反トランプ・反アメリカを鮮明に打ち出したカーニーが大逆転した。カーニーは、「(トランプがいる以上)アメリカはもはや信頼できない」と語った。
これは、単にアメリカを痛烈批判したというだけではない。おそらく世界の国々が共有する感情であろう。
アメリカの力は、経済力や軍事力にある。しかし、それだけでは世界の秩序を維持するリーダーにはなれない。歴代アメリカ大統領は、中国を叩くことに熱を上げてきた。その一番の要点は、国としての「信頼」を貶めることである。それはある程度成功している。
しかし、トランプのアメリカが強烈に押し出しているのは、自ら世界秩序を破壊する行為である。この間のトランプの発言行動を見て、信頼が上がったというのは、プーチンやネタニヤフくらいのものだ。ニクソン流なら、トランプ・プーチン・ネタニヤフは悪の枢軸である。
アメリカが、一強支配の力を落としてきたのは事実である。トランプはそれをさらに推し進めた。アメリカ自身が機能不全に陥っている。国内の分断は、もっと厳しくなる可能性が高い。
そして、世界においては、アメリカはソフトパワーを徹底的に失った。その核心は「信頼」喪失の一語に尽きる。