論 考

あなたが抜けても会社は動く

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 今回のゴールデンウイークは、4月26日から27日、29日、5月3日から6日である。いわく、飛び石連休だ。途中の4日を全部つなげば11連休になる。連休の間の出勤はそれなりに楽しみようがあるという人もあろうが、どうも休暇をとって11連休にする人は多くはない。

 有給休暇取得率は2023年で65.3%らしい。2012年に安倍が突然、10年後有給休暇取得100%を打ち上げたが、たいして話題にもならなかったし、予想通りというべきか、形式的ワーク・ライフ・バランス論が右往左往しただけで、いつまでたっても達成できない。

 世間の調査で、なぜ休暇を取らないのかを問うと、「長く休むと申し訳ない」という見解が多いらしい。これも昔から不変である。

 わたしたちの組合チームは、1980年に、全組合挙げて有給休暇取得キャンペーンを展開した。模造紙の半分大の漫画入りポスターを4回発行し、併せて全職場で昼休みに集会を開いたり、講演会を開催したり、にぎにぎしく取り組んだ。当時、そんなことに取り組む大労組はほぼ存在しなかった。

 第一発目が勝負だ。コピーは、「あなたが抜けても会社は動く」。わがチーム以外では反対が多かった。理由は、「組合員さんに失礼だ」という。わたしは正面突破に出た。「余人をもって代えがたしという人物は、わたしの支部にもおられる。ただし、自分で、ワシでなくてはならんと言える人は全支部で1割もおられまい。余人をもって代えられるからこそ、わが社は社員5万人の大企業になったのだ。」

 さて、ポスターを全職場組合掲示板に一斉に貼り出した。出勤してきた面々は、怒るどころか爆笑だ。組合もなかなかやってくれるじゃないかという声を背景に、職場集会に力が入った。当時の取得率は10%程度であったと記憶する。

 「長く休むと申し訳ない」相手は、どうやら上司らしい。上司が積極的に休んでくれたら休みやすいという。ただし、こんなのは心得違いである。

 法律で、労働者は有給休暇取得の権利を保証されている。たかが上司風情が法律の上なのか! わたしは、こういう思考がはびこっている会社社会を官僚制民主主義と呼んでいる。形式は民主主義だが、本質は上意下達、下意うろちょろ。これでは、上司は、ミニ・トランプだ。あほらしくないのだろうか。

 日本国憲法を柱とするわが民主主義がまともに育たないのは、建前と本音の違いで、上司の言うことならご無理ごもっともという、封建時代勤労観が依然として支配しているからである。

 圧倒的多数の人々が「お勤め人」している社会で、人々は官僚制民主主義の文化にどっぷり漬かっている。こんな事態では民主主義が成熟しない。

 官僚制民主主義ではなく、職場に民主主義を定着させようというのは、ざっと80年前、労働組合が誕生して以来掲げてきた基本的スローガンのはずだ。官僚的民主主義を放置しているのでは、労働組合の名前が泣く。

 「あなたが抜けても会社は動く」というのは、たかが! 有給休暇取得キャンペーンのコピーではあるが、職場に組合を! 職場に民主主義を! の気合を込めた活動の一つであった。

 「明るい職場」というものは、民主主義が貫徹する職場なのである。