論 考

さすが、ハーバード大学

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 トランプ政権の教育省は、全米の大学に対して、政権の方針に従わなければ助成金をカットすると露骨に脅迫している。3月、60の大学機関に、反ユダヤ主義的な嫌がらせとみられる行為に関する調査を開始した。

 教育省は、ハーバード大学に対して、多様性・公平性・包摂性(DEI)重視方針の撤回、一部の学部などへ審査開始などの要求をした。従わなければ23億ドル(3300億円)の資金提供を凍結すると恐喝つきだ。

 これに対して、ハーバード大学ガーバー学長は、公開書簡で拒否した。堂々たる反論を展開している。

 ――私立の大学が何を教えるか、誰に教えるか、誰を雇用するか、どの分野の学問と問題を追究できるかについて、いかなる政府も、どの政党が政権を握っているかにかかわらず、指示するべきではない。――

 学長はさらに、――政権に対して全般的に反対している左派的思想の持主を探し出すため、学生、学部、スタッフの見解を審査すべきとする連邦政府の要求は、憲法で保障された言論の自由の権利を侵害している。当大学は、独立性や憲法で保障された権利を放棄しない。――

 ハーバード大学には90億ドル(1.3兆円)の助成金があるが、その1/4が凍結される。

 ハーバード大学は世界的に羨ましい財政基盤を確立しているが、それ以上に、学問の府として、断固として節を曲げてはならないことがある。おカネに屈するわけにはいかないという、まさに大学の誇りである。

 トランプなる人物は、哲学なし、理想なし、マンガに登場するようなゼニゲバで、しかも際限のない権力主義者である。正論をぶつけても、理解しえないかもしれないが、だからといって相手のレベルに合わせるのでは大学人たりえない。ガーバー学長に心から共鳴の拍手を送る。これこそ、アメリカのデモクラシーだ。