論 考

面の皮の中身

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 昨年9月、斎藤元彦兵庫県知事はパワハラ疑惑と公益通報潰しにより、県議会議員満場一致で不信任決議された。

 斎藤は失職して、同11月の県知事選挙に出馬した。劣勢が予想されたが、立花孝志N党党首が同選挙に立候補、斎藤当選の応援選挙(?)をした。二馬力選挙として批判をくらった。

 立花は、SNSで「無実の斎藤を県議会が陥れた」とするデマ宣伝を激しく展開した。守旧派の陰謀で陥れられた改革派の斎藤という物語が独り歩きし、斎藤は再選を果たした。それなりにドラマチックではあったが。

 選挙では、斎藤問題を審議する県議会の百条委員会が槍玉に上げられ、とくに首謀者とされた委員が、街頭演説とSNSの双方で攻撃され、本人と家族が生活できなくなる異常な事態にされた。追い詰められた本人は自殺した。

 百条委員会は今年3月4日に報告書をまとめ、斎藤の公益通報保護法違反を指摘した。しかし、斎藤は百条委員会の中立性を疑問として正面から受け止めていない。

 3月19日、知事自らが依頼設置した第三者委員会による調査報告書が発表された。6人の弁護士による外部委員である。委員会は、県知事が内部告発された問題について調査した。

 報告書のポイントは、①西播磨県民局長による内部告発に対する斎藤ら県の対応は、公益通報者保護法の見地から違法である。②疑惑の当事者(斉藤知事)が関与して通報者探索をしたのは違法である。③通報自体を理由として懲戒処分を科したのは違法・不当である。④10件についてパワハラ行為と認定。――などである。

 さらに第三者委員会は、斎藤が取り巻きを重視して、他の職員とのコミュニケーションが不十分であり、斎藤が批判に対する耐性が弱く、冷静さを欠いたと指摘した。

 記者の質問に対して斎藤は、「大変重く受け止める。反省すべきところは反省し、県政をしっかり前へ進めていきたい」と語った。中身はない。

 昨年3月に問題発覚した時、斎藤は、告発者に対して、「嘘八百、公務員失格」と罵倒しているが、百条委員会も第三者委員会も告発者の通報を是として、告発潰しを企てた斎藤の行為を断罪した。

 パワハラも問題だが、公益通報者保護法を手前勝手に解釈して、犯人捜しをおこない、罰したのは、県知事という特別公務員の地位にある人物が絶対にやってはならない行為である。

 これは法律の上に知事が君臨することであり、一切、知事の意に添わぬことは許さないのだから、民主主義を根本から否定することになる。

 選挙で信を問うたと言いたいだろうが、くだんの選挙で斎藤が当選することになった経緯は、全面的に嘘っぱちのでっち上げ物語に依拠したのであり、委員会の結論と前後したとしても、すでに再選の根拠が崩れている。

 実は、たまたま県知事選挙のさなかに、わたしは兵庫県の友人と選挙について少し話した。相手の反応は、公益通報者保護法問題など全然頭になかった。「どうせ、県知事なんて誰がなっても同じ」という調子である。これはダメだと思っていた通りになった。

 選挙で人を選ぶというデモクラシーの仕組みは、もっともふさわしい人物を有権者がえらぶのだから、優れたものである。

 それは有権者が真贋を見極める頭脳を持っているという前提である。法律を守るよりも、自分が知事でありたいことが本願だというような人物を、有権者が見逃せば、今回のような問題を起こす。

 騙されちゃった、ということではデモクラシーは育たない。

 もう一つ、立花が暴漢に襲われた。新聞各紙は、「暴力は許さない」と正論を主張する。それは、その通りである。

 ただし、立花のように言葉の暴力というのもある。事実、人が亡くなった。立花のような「言葉の暴力も許さない」ようにしたい。