週刊RO通信

実は、トランプの行き詰まり

NO.1602

 進軍ラッパを吹きならすのは簡単だが、いつまでも戦争を続けられない。戦争に勝ちたい。負けたくない。人間は習慣の動物だから、いかなる戦争にも慣れる。慣れてしまうと、戦争を止める踏ん切りがつかない。

 ウクライナ停戦交渉に入るというトランプ発言は、終わりの見えない戦争を、解決する本当の行動になるだろうか。

 トランプ・プーチン間で、どんな話が交わされているのか。トランプは、「プーチン氏とともに常識を強く信じている」という。ふむ、この常識が曲者だ。社会通念としては、トランプもプーチンも桁外れの非常識だ。常識外れ同士が共有する常識なるものは、危なくて見ていられない。

 プーチンがいろいろ不満を抱えていたにしても、15万人の軍勢でウクライナへ攻め入ったのは非常識、大間違いだ。相手ばかりではない、自国兵士が連日数百人くらい死んでいく事態を3年間眺めて飽きない! プーチンが、冷静沈着な表情を演じるほど、その人間性がグロテスクに見える。

 プーチンが宣揚してやまない国家の本体は、プーチンを支える官僚体制に過ぎず、そのプーチン体制を支えるために、兵士たる国民がばたばた斃れる。ウクライナの人々に対しても、ロシアの人々に対しても、プーチンは人間の命に対する畏敬の念がない。こんな手合いが常識を語れるか!

 トランプは、プーチンも戦争を止めたいと思っていると言うが、プーチン自身が始めた戦争だから、プーチンが撤兵すれば終わる。その気配すらないプーチンが、戦争を止めるべきだという常識を持っているわけがない。

 トランプは、プーチン向け大サービスに余念がない。ロシアのG7復帰をさせるべきだという。プーチン・ロシアは、2014年クリミヤ半島併合でG8メンバーから外された。いま、3年間のウクライナ攻撃最中にプーチンのG7復帰を提唱するのだから大出血サービスだ。

 しかも、ウクライナが2014年以前の領土に戻すというのは非現実的で、これからの安全保障を担保するためにNATOに加盟したいのも可能性は小さいとはねつける。なるほど、プーチンの無理を通せば、ウクライナの道理は引っ込まざるをえない。トランプの性根がよく見える。

 報道されている通りならば、プーチンは満額回答。しかも国際舞台へのご招待つきだ。プーチンは国際刑事裁判所ICCのお尋ね者だ。戦争に善玉も悪玉もないとしても、ロシアが侵略しているのであって、被害側のウクライナが譲歩しなければならない理屈はない。このままでは、ウクライナの犠牲の上に戦争を終わらせるという構図にしか見えない。

 逆にいえば、トランプは、ウクライナが了解できる内容の停戦を、プーチンに納得させるだけの力を持たない。しかも、ウクライナへの支援は早く止めたい。とすれば、――戦争を止めさせる大義をかざして、力づくウクライナを抑え込むしかない。――これがトランプの持つ決め球だ。

 しかも、トランプは、パナマ運河やグリーンランドを欲しがる。更地のガザも。これ、プーチンがやってきたことと同じである。欲しいものはカネで、カネでダメなら力で手に入れる。帝国主義である。植民地主義である。ネタニヤフの無法狼藉を止めないのは、トランプが同じ思想を持つからだ。

 トランプは「意識する系」が大嫌いだ。哲学は持ち合わせない。処世術はしたたかに持っている。損か得か。そのご本尊はカネと力だ。これでアメリカ大統領の座まで射止めたのだから、そのスーパーパワーを使わぬ手はない。

 トランプが行く道を妨げるものはすべて敵である。トランプの周辺を固めている連中は、政治家としての理念や矜持を平気で着替える。鉄壁の仲間を集めたつもりだろうが、隙あれば裏切る輩ばかりである。まことに、同じ羽毛の鳥は群れる。ジェット機のエンジンに飛び込んでくる鳥の群れだ。

 岩屋外相がミュンヘン安全保障会議で、「ロシアが勝者になる終わり方であってはならない。世界は分断と対立に向かっている。協調と融和に向けねばならない」とスピーチした。石破訪米の成果? よりも筋の通った発言で上等である。トランプは尋常ではない。尋常でない人物が引っ張りまわす大国は、自民党外交の普遍的価値観を妨害する。「どこまでもついて行きます下駄の雪」路線は止めねばならない。そろそろ春本番だ。