NO.1599
トランプなる人物の発言には嘘が多い。きわめて自己中心だ。自戒がない。大統領職にふさわしい品位がない。だから、わたしはトランプ嫌いである。もちろん、全面的に否定するのでない。妥当なことは肯定するつもりだ。
今回は、トランプ流のアメリカン・ドリームについて考えた。
1620年11月、102名の清教徒が、180トンのメイフラワー号に乗って北米大陸へ到着した。イングランド王ジェームズ1世が、王権神授説を唱え、英国国教会強硬派を支持し議会と衝突した。王の弾圧を避け、信仰の自由を求めて、新大陸をめざした人々は、ピルグリム・ファーザーズと呼ばれる信仰篤き集団だった。彼らがアメリカ植民の最初の人々である。
彼らは食料の手持ちが少なく半数が餓死した。それを救ったのが先住民の一部族である。先住民から、住まいを作り、狩猟や穀類の栽培を学んで、生活を築くことができた。翌年、食料の収穫ができた。ピルグリムは、支援してくれた先住民を招いて感謝祭を催した。宴は3日間続いた。これがThanksgiving Day(11月第4木曜日)の始まりとされる。
このまま進めばよかったが、1622年には先住民の土地へ植民を開始した。当然ながらピルグリムは先住民と衝突する。それからの約50年間、先住民との対立が激化し、大きな戦争も起こった。
移住した人々は牧畜活動を拡大した。やがて土地投機時代が来る。のち1848年には、カリフォルニアでゴールドラッシュ騒動も発生する。
とくに1800年代が西部開拓史といわれる。幌馬車はひたすら西へ進む。西部開拓史はハリウッド映画の西部劇では、カウボーイや騎兵隊が大活躍で、襲い掛かるインディアンを撃退するのが筋書だが、侵略者はヨーロッパから移住してきて、先住民の土地へ入植した人々である。
1846~48年には、メキシコとの戦争を起こした。アメリカはニューメキシコ、カリフォルニアの広大な土地を奪取した。ただし、この戦争はアメリカ内部でも賛否入り乱れ、米国史上もっとも不正な戦争といわれた。
いまを時めくアメリカの建国物語にケチをつけるつもりはないが、信仰心篤い人々がユートピアを求めて活動した時点から、恩知らずにも! 先住民を駆逐し、暴力による植民活動を展開した歴史が残る。これが、「偉大なるアメリカ」の基礎である。(イスラエルはそれを現代に華々しく展開中だ。)
T・ジェファーソン(1743~1826)は、J・ロックの「生命・自由・財産をめぐる権利」という言葉を、起草した独立宣言には「生命・自由・幸福を追求する権利」と書いた。幸福は、財産よりもっと大切な概念であり、国家と個人が幸福を追求する生き方を共有するべしと考えたのだろう。幸福はモノではなかったはずだが、実際は財産に、おおいにシフトしている。
1776年合衆国建設当時、アメリカは欧州各国に比べて、出自や身分が社会における桎梏とならなかった。新天地で活動した体験から生まれたアメリカン・ドリームは、アメリカにおける成功概念である。誰にも均等に機会が与えられている。勤勉と努力によって果実を獲得するという夢だ。
これがいまは、メリトクラシー(merirocracy)である。人の評価は、本人の知能・努力・業績によると考える。それがさらに、成功とは、自らの知能・努力・業績による当然の報いだという考え方になる。成功しない圧倒的多数もまた報いだと考えてしまう。社会的格差拡大は必然である。
おたまじゃくし理論というものがある。みんなが、やがてカエルになれると思う間は幸福だが、カエルになれないことを悟ったオタマジャクシはどうなるか? 親は、おれがなったようにならず、おれが望んだようになってくれと、子どもに期待をかける。しかし、子どもは親の階層から抜け出せない。
トランプは、米国的メリトクラシーに苦悩する人たちに向かって、きみたちが不幸なのはエスタブリッシュメントのせいだとぶった。実は、そうではない。トランプ自身が憧れるアメリカン・ドリーム自体が、不満を抱える圧倒的多数を作り出した。それを再現するというのは誤謬の最たるものだ。
アメリカの栄光を支えてきたアメリカン・ドリームの陰翳の歴史を無視することは、脆弱な足場の上に高層ビルを建てるようなものだ。他国に圧力をかける小細工をたくらむ前に、足元をしっかり見つめ直すべきだろう。