論 考

裏金作りは勝手たるべし 死して税金払う者なし 

筆者 司 高志(つかさ・たかし)

 自民党は、石破氏が総裁になってから、急に迷走が始まった。一番の間違いは、野党の選挙態勢が整う前に衆議院選挙をやるのが最善という読みのもとに、選挙戦をやってしまった。

 石破氏は、なぜ総裁選に勝てたのか? この認識が間違っていたので、読み筋の全体に誤りが生じた。

 一つには偶然のなせる業で、立民の代表が、野田氏に決まっていたことである。野田氏に石破氏をぶつけたほうが勝ちやすいか、高市氏をぶつけたほうが勝ちやすいかという選択になった。この選択では、石破氏の方が勝ちやすいと判断したのだろう。あながちこれは間違いとは言えない。

 もう一つは、石破氏はなぜ選挙前に国民に人気があったのかということの認識間違いに起因する。

 国民人気について、報道機関が言及するには何か根拠がなければならない。そこで、アンケート調査をする。国民人気を調べるということなら、自民党員、非自民党員という仕分けではなく、無作為に選んだ調査対象者に、質問していく。自民党員でない人は、質問に答えるときには、石破氏の普段の言動から、いかにも自民的な人よりも、正論を述べている石破氏を選ぶ。しかも、党内で冷や飯を食わされても、その主張を変えないので、ますます国民の期待は高まる。

 石破氏が、この構造を理解せずに、いかにも自民的な手法で選挙を行ったから、自らの言説を覆し、人々の期待を裏切ってしまった。その結果は大惨敗である。

 こういうとき、裏切られた思いは通常の恨みより、2倍も3倍も大きくなる。これを自民党の執行部は甘く見てしまった。これが岸田氏なら、「こいつならやるだろうな」で怒りは買うが、恨みは倍加しない。

 ところで、選挙の過程で、衆議院選挙前に安倍派の裏金議員を非公認としたが、選挙の大惨敗が、なりふり構っていられない状況を生み出した。

 衆議院での総理を選ぶ投票では、石破氏が総理に選ばれるためには、投票してくれる人が少なすぎる。政権維持のために、なにがなんでも石破総理として投票してくれる人が必要である。

 ここで究極の愚かな選択をした。非公認にした安倍派の裏金議員で衆議院選挙に勝ち残った人たちと会派を組む。いかにも自民党的なその場しのぎの方向を印象づけてしまう。

 かくして、自ら「裏金作りは勝手たるべし」と公言したに等しい。自民党のお金に対する政治手法は、利権に基づいた金権政治である。裏金を自由に作ってもよい自由金権運動だ。党名も自由金主党としたらどうだ。

 裏金を政治資金団体に入金してしまえば、政治家当人が死去しても、相続税を払わなくてよい。死して税金を払う者はおらず、世襲議員発生の亡国の仕組みとなる。

 第二次石破内閣が誕生すれば、あとは自民党の好き放題だ。もう自民党は、恥も外聞もない。野党側が判断を誤ると、今後の動向に大いに関係する。せっかくの一強終焉のはずが、オセロのように一挙にひっくり返る状況も生む。野党側は、自民党の仕掛けに対して慎重に対処してほしい。