週刊RO通信

日本を劣化する「政党会社」

NO.1586

 衆議院議員選挙が終盤に入った10月25日、期日前投票に出かけた。駅の地下ホームからエスカレーターで上がると、駅前に投票する予定の野党候補者の街頭演説に出くわした。実は、候補者の演説を聞くのは初めてでタイミングが良かった。候補者は雄弁ではないが実直誠実な語り口であった。

 続いて、応援弁士として党幹部N氏が演説した。同氏も候補者である。同氏もまた雄弁タイプではないが、やわらかい、理路整然とした話しぶりで約30分、裏金問題から入って政党と政治資金から自党の政見を語った。多くの人々が足を止めて聞き入っていた。

 両氏ともに歯の浮くような夢は語らず、直面する政治をいかに変えていくか、聴衆の一人ひとりに考えてもらうように語った。派手さはないが、なかなかいい雰囲気の演説だった。わたしは投票所まで歩きながら考えた。

 高橋亀吉(1891~1977)は、石橋湛山(1884~1973)と並んでエコノミストの草分けである。丁稚奉公からはじめた高橋の経済理論は人々の生活に密着した視点を失わなかった。彼が1929年、『中央公論』に発表した「政党株式会社論」は、いまも新鮮な刺激を与える。

 ――資本主義が末期段階になり純粋な経済活動では利潤獲得が困難になったので、資本家は政党に軍資金を提供し、見返りに各種利権、補助、保護、救済、買い上げなどの便宜を得る。資本家は挙って政党会社の株主になり、政党会社による利益配当に預かる。

 いわく、補助保護としては、補助金、政府出資、政府買い上げ、関税保護、国産奨励。金融では、低金利資金融通、不正貸し出し、政府救済、地主支援、米価調節。利権としては、資源開発特許、独占事業特許、国有鉄道、官営事業製品の販売独占、政府購入品の売り込み独占、官有物払下げ。その他雑貨としては、情報を早く教える、遊郭の許可、官位販売、橋・道路・学校建設、三等郵便局認可、煙草小売人の指定など。

 これら政党会社の営業科目を軌道に乗せるために、政党は政権を獲得して、中央政府・地方官庁を支配する必要がある。中央省庁のうち、金櫃は大蔵、鉄道、逓信、内務、農林、商工である。ぼろ儲けしやすい、監視が届きにくい植民地(朝鮮・台湾)や、関東州、樺太庁の人事を固めるにある。――

 この流れがいまだ健在なのが、企業による献金であり、パーティ券購入であることは言うまでもない。裏金問題がけしからんのは当然だが、これらの背後に政党・財界の癒着構造がある。政府・財界が「賃上げ」大合唱をするのは、結構なように見えるけれども、かかる癒着構造を無視して喜んでいるようでは救いがない。(連合、労働組合が喜んでいるとは思わないが)

 高橋は末尾に、この政党株式会社事業が、近来、いよいよ露骨にその営業範囲を拡大し、巨大な政党資本を集積して、ますます膨大な利益配当を株主におこないつつある。これは「政治家の腐敗」によるだけではなく、むしろ経済的支配階級(資本家)が没落へ向かって前進したことでもある。

 だから、これを政界浄化運動という政治家の個人的資質向上によって是正しようとするのは本末転倒である。「唯一の道は、政権そのものから営利第一主義の資本家階級を除去するほかはない。」と断言している。

 さて、100年ほど前に比べれば、高橋的政党会社論はずいぶんスマート! になったようであるが、その本質が変わったといえるだろうか? 単純に、「裏金議員よ、去れ!」と大声疾呼するだけでは、なんら問題解決には至らない。N氏の演説は、これと表現が同じではないが、同じ趣旨を冷静沈着に語っていた。これが、人々の心に響くであろうか。

 今回の選挙戦で、とくに石破氏をはじめ与党議員は掴みどころのない夢物語を語っているようだ。「よくするために、よくしましょう」と唱えているとしか、わたしには思えない。おそらく、どなたも与党的夢物語を信ずるほど単純ではあるまい。

 今回の投票に込められるのは、「これ以上政治が劣化しないでほしい」という切実な気持ちに違いない。誰もバラ色の政治を期待しているのではない。わたしは、石破氏の熱弁をみながら、やはり、大事な認識が抜け落ちていると思うしかなかった。