週刊RO通信

これが、自民党の隠し味

NO.1583

 自民党総裁選挙において、小泉進次郎、石破茂、高市早苗の3氏が事前の予想と異なるシーソーゲームを展開したので、選挙期間を長く設置し、変わる自民党? の底力を見せようとする作戦は、それなりに奏功した。未熟右翼・旧態右翼・極右翼の接戦で、親右翼でない人はいずれが勝利してもありがたくない。それでも、未熟右翼と極右翼はリスクが高いが、一応なじみのある旧態右翼が僅差で勝利したので少しだけ気持ちがまぎれたようだ。

 ところが総裁選の余韻がくすぶるうちから石破氏は、総裁選挙戦までの正論・筋論派ではなく昔ながらの自民党体質を露呈した。解散は予算委員会審議を経てからと筋論をぶっていたにもかかわらず、臨時国会開催後直ちに解散で国民の信を問うとした。まだ首相に就任していない段階である。

 所信表明演説は本人が言うように、「私の思い」なるもののオンパレードである。もちろん、具体的施策を事細かに並べるのも問題がある。首相は行政の長であって、独断を貫ける立場ではないからだ。それにしても、高校生の弁論大会並みの期待的表現ばかりで石破的迫力がまったくない。

 世間にわかりやすく丁寧に持論を展開したつもりであろう。首相としての大方針は、5つを守る。いわく、ルールを守る・日本を守る・国民を守る・地方を守る・若者女性の機会を守るという。

 裏金問題はうやむや、いまの党内論議を見る限り、裏金議員でも選挙で通りそうであれば公認するらしい。これでは自民党はなにも変わらない。アジア版NATO設置論、日米地位協定改定論、政治資金問題など語らず。なにが総裁選の大問題だったのか、解散でなにを問うのか。某国が飛ばしている風船よりも主張がない。要するに、石破氏は自民党内の融和を最優先した。総裁選での正論・筋論が消えた。石破氏に期待した世間の人々! としては真正面から期待外れ、裏切られたという気持ちだろう。

 ところで、期待を持った人々の気持ちはわかるが、これが自民党の本来の持ち味であり、石破氏はその文脈において、その場その場で然るべく発言してきただけである。これが自民党的リアリズムである。

 世間の怒りは津波のようなものだから、防波堤を何段にもわけて設置することにより、そのエネルギーを減衰させる。つまり石破氏は、自分がラビリンスの役割を果たしたから、もはや津波は収まりつつあると踏んでいる。

 これでは世間の人々が、改革に不熱心な政治に失望して総選挙の投票率が下がるという分析がある。自民党的生存の法則の第一は、高くない投票率こそ生き延びる最善の道である。この法則の歴史は古い。普通選挙が1925年(大正14)に採用された。それまで直接国税3円の納税者のみが有権者だったが撤廃された。有権者は一挙に4倍に増加した。無産政党も次々に登場した。しかし、支配政党は官権を駆使し買収に努め、無産政党の成長を押さえ続けた。敗戦後は民主主義になったものの、無産政党はいまだ多数派大衆を獲得する力がない。政党組織力の決定的な違いだ。しかも、よくよく見れば世間には、戦前からの意識がしたたかに根を張っている。

 自民党的生存の法則の第二は、なにがなんでも党勢の確保を最優先する。党勢が他を圧倒するから政権党たりうる。自民党的政治家の心構えは、国家主義で、国家第一であるが、巧みに読み替えて、(国家第一を信奉する)自民党第一主義である。国家のためになることは、自民党のためにすることである。すなわち、自民党が国家に優先している。だから、国家のために活躍している自民党議員の裏金は必要経費だ、というのが本音である。

 自民党的生存の法則の第三は、総裁・総理は強くあらねばならない。今度の選挙で世間の批判を食らっても、もっとも叩かれるのは裏金議員であり、安倍派である。これが減れば、石破内閣の政権基盤は相対的強化される。また、全体に議員が減っても、岸田内閣ならもっと減ったのである。石破内閣だからこの程度で済んだ、と「納得し共感」するのが自民党である。

 つまり、従来の自民党内閣が選択した道を石破氏もまた堅実に選択する。最後の挑戦で獲得した総裁・総理の椅子であるからなおさらだ。

 この石破氏(自民党)の考えを変えるには、どうするか! 世間が従来同様の選択をしているかぎり、なにも変わらないことだけは間違いない。