筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
国連総会でグテーレス事務総長は、「レバノンがもう一つのガザになることは許されない」と悲痛なスピーチをした。多くの共感を集める。しかし、共感だけではイスラエル・ネタニヤフの暴挙は止まらない。武力行使を開始すれば、権力の亡者は歯止めがない、悪しき見本でもある。
アメリカ国防省スポークスマンは、「レバノンにおけるイスラエル軍の作戦にアメリカは情報提供していない。危機回避に全力で圧力をかけている。」「地上戦は迫っていない。」と語った。
バイデン氏はテレビで、「中東で全面戦争の起こる可能性はある。」としつつ、「レバノンの戦闘を解決する可能性はある」と正反対の言葉を並べた。そして、「パレスチナ問題は二国家解決しかない。これはネタニヤフと意見がちがう。」とも語った。
ネタニヤフに圧力をかけているが、相手が同意しないということだろう。
レバノンは経済危機、貧困率44%である。空軍の力不足だから、イスラエル空軍が好き放題暴れている。この機会に、ヒズボラとレバノンをできるだけ叩くという戦術で、パレスチナに対するのと同じだ。
イラン大統領ペゼシュキアン氏は国連総会で、「戦争を望んでいない」と冷静な発言をした。
アメリカには、ユダヤ系市民が760万人いる。全人口の2%でしかないが、政治・金融・IT関連など各界で影響力をもつ。
とくにユダヤ系ロビー団体、たとえばAIPAC(米イスラエル公共問題委員会)は会員が300万人以上、年間予算1億ドル(140億円)の力で強力なロビー活動を展開している。この団体はイスラエルの右翼に思想が近い。
ところで、ユダヤ系市民は70%が民主党支持とされる。バイデン、ハリスともに支持団体として丁重に扱わねばならない。まして、いまは大統領選挙で微妙に接戦を続けている。
ネタニヤフがアメリカの支持なくして好き放題の行動ができないはずだが、おそらく、アメリカのユダヤ系市民の力があるから、バイデンがイスラエルを抑え込めないと踏んでいるだろう。少なくとも大統領選までは、自由に軍事行動ができるし、やれるだけやっておくという狙いがありそうだ。
流浪のユダヤ人が定住の地を求めて戦ってきたが、いよいよ国家を獲得した瞬間から植民地主義の無頼漢国家になり果てた。これでは、世界の世論はイスラエルを見放すだろう。それはアメリカが世界秩序を守れと大声疾呼することの足を引っ張っている。