筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
立憲民主党の新代表に野田佳彦氏が選ばれた。
野田は、野党議席最大化論者である。そのために穏健保守層を取り込むという狙いである。
たしかに、自民党は大混乱期である。近々、選出される総裁が誰になろうとも、自民党が体制を立て直すには、相当の覚悟があっても容易ではない。
だから、野田、小沢一郎が描く戦略が奏功すれば新しい政局が生まれる可能性は高い。小沢は最後の勝負どころだと腹を括って野田を推したはずだ。
次点であった枝野幸男も、そのグループも総選挙に向けて気合を入れることは疑いない。当面、立民内部の不協和音が騒動にはなりえない。野田自身も最後の挑戦、背水の構えで、選挙戦略を通じて、立民に新しい力を起こそうとしているようだ。
忘れてならないのは、立民の存在理由は、自民党的エセ民主主義と枕を並べるような保守中道ではない。民主主義の基盤としてのリベラルである。
今回の代表選で枝野が主張したのは、まさにそれであり、立憲民主党の立党の精神であった。ただ、大きな敵失を前にして、総選挙間近であるから、あまりアイデンティティ=存在理由論を振り回すのは得策でないと判断したのか、率直、明晰な主張ではなかった。
しかし、立憲民主党は立民だ。民主主義によって立たねば、存在理由はない。自民党との本質的違いを浮き立たせない限り勝利に近づくことはできない。野田は保守と親和性が高いが、立民が民主主義の党たることの価値を十分に知っているはずだ。
野田のもう一つの大きな狙いは若手を育てることである。
学習を通じて地道に積み重ねるのが人材育成である。とくに選挙戦はきわめて有意義な学習機会であり、政権奪取という大目標を獲得しようと奮起するときほど大きな刺激を与える場は他にはない。
だから、野党議席を最大化するという目標を掲げて性根を入れた活動を展開することが大事なのである。
ところで野党との連携が狙い通りに進むかは未知数である。
維新は、目下退潮傾向が出ている。9月22日摂津市の府議補選で公認が落選した。8月には箕面市長現職・公認が落選した。兵庫県知事問題もある。万博のミスリードも大きい。
当初から維新は議員の品位が問われてきたが、有権者にそのポピュリズム的性質がかなり深く浸透してきた面がある。
維新が、立民と組んで野党としての攻勢をかけるか、自党の独自の道を行くか。どちらを選ぶかはこれからである。常識的に考えれば、自民党が党内外にガタピシしているのだから、野党として突っ張るべきであるが、自民党との関係をすっきりさせるのは容易ではない。
国民民主は、議員としては少ない。立民が国民と組みたいのは、国民を支持している労働組合と不協和音をなくしたいからである。
しかし、国民が野党攻勢のなかで存在感を失いそうだと危機感を持てば、なんとか立民と連携しないための口実にこだわるだろう。
野田が保守と親和性が高い中道だという視点からすると、従来の保守は存在感を確保するために、さらに保守化(いわゆる右傾化)する可能性が高い。自民党総裁有力候補をみると、高市は超右翼、石破は旧右翼、小泉は無意識右翼である。自民党がさらに右傾化する可能性を否定しきれない。
立民が中道へ傾斜すると、保守層の論調はさらに保守化を誘う。読売社説(9/24)はさっそく原発・防衛費問題で、立民はもっと保守化せよと誘っている。昔から日本の財界保守本流は、日本の政党が保守二大政党になって、適宜政権交代する政治を構想してきた。野党の中道化・保守化を後押しするのは、典型的な保守の論調である。
最後に、もう一つ。下手をすると、立民が野党連携に焦点を合わせたにもかかわらず、結果的に、野党が対立関係を深めて、自民党に利することも予想される。実際、従来自民党が危機を乗り越えてきたのは、野党がまとまりえないからである。
戯画化したわけではないが、野田立民の行動次第で、政局はいろいろな表情を見せそうだ。