筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
BBCが画像で、ヨルダン川西岸地域における、イスラエル人の入植活動の実態を報じた。
それによると、50年来住んでいるパレスチナ人アイシャさんがイスラエル人入植者に恐喝されて家から逃れる。しばらくして帰宅してみると家財が散々に破壊されていた。そこへ入植者モシェが現れたのでマイクを差し向けると、自分ではないと白を切って立ち去る。短い画像だが、緊迫感ある犯罪現場が活写されている。
BBCによると、国際法・国内法違反の入植者の前哨地は1967年からつくられているが、いま1960か所あり、その半分が2019年から急増した。入植活動をサポートしているは、国際シオニスト機構であり、その資金はイスラエル政府が出している。つまり、イスラエルが国として強盗をおこなっていることになる。
1948年5月15日、英国軍がパレスチナを撤退する。イスラエルが建国する。英国軍の撤退はまさに瓶のふたが取れたといえる。イスラエルはヨルダンと密約を結び、国連がパレスチナに割り当てた土地を山分けしようと画策したのが違法な入植活動の始まりである。
迫害されたパレスチナ難民は当時80万人が離散した。イスラエルは、パレスチナ人の不動産を没収する。その延長に現在の無法野蛮な活動が続いている。
なぜ、ナチによるホロコースト(大虐殺)をうけたユダヤ人が一転して加害者になったのか、だれでも不思議に思うし、まさか! の心地だろうか。
シオニズムは、パレスチナにユダヤ人国家を建設しようとする運動である。それは暴力や武力でパレスチナの土地を奪う運動ではなく、神の導きによって敬虔にして平和な国つくりをするというのが建前である。
つまり、世界に向けてユダヤ人が誇らしく掲げたシオニズムは、トーラー(神から授けられた教示)に基づくもので、その戒律を遵守してこそユダヤ人が選民とされる理屈であって、シオニズムの存在理由がある。
ところで、いまのシオニズムなるものは民族主義と植民地主義を厚化粧で隠すものにすぎない。かつてユダヤ人迫害を反省した国々の人々が贖罪意識によって、「反シオニズム」のレッテルを貼られないように気遣いするが、実はシオニズムそのものが理論的実践的に否定されているのだから、イスラエルを全面的に支持するのは大間違いである。
どこから栄光あるはずのシオニズムが変わったのか。
初代大統領ヴァイツマン(1874~1952)が語ったことを知ると、最初からシオニズムなるものはトーラーに反していた。たとえば、
――シオニズムの基本的な動機づけは、いまも昔も変わらず、民族的な本拠地の所得に向けた揺ぎなき意志である。――
――シオニストはユダヤ教徒の苦しみを救おうとしたのではない。ポーランドのユダヤ人を全部ひっくるめたよりも、パレスチナにいる「一頭の雌牛」のほうが、よほど価値がある。――
――シオニズムは民族の救済を目的とするものであって、個人としてのユダヤ人を救い出すためではない。――
きわめつけはこれかもしれない、
――国家があればジェノサイド(集団殺戮)は再来せず。ナチの凶暴性は神の秩序にもたらされた逸脱ではない。(と考えれば、民族・国家主義に基づく活動は)シオニズムの直接的帰結である。――
つまり、第二次世界大戦後のシオニズムは、ユダヤ人の国家を確保し拡大していくことこそがもっとも理に適うのであって、いまのネタニヤフのリーダーシップは建国以来の大方針だということになる。
であるとすれば、シオニズムが神の教示に基づいた活動であると勝手に思い込んでいる、西側諸国の人々は、とんでもない思い違いによってイスラエルを支持している。知ってか、知らずか? 知っているならネタニヤフと同罪である。知らないのであれば、いくらなんでも、もうそろそろ真実に気づかねばならない。