NO.1572
大統領候補トランプの副大統領候補にJ.D.ヴァンスが選ばれた。副大統領は大統領に不測の事態が発生した場合に大統領の職務を受け継ぐ。理屈は一心同体だが、個性が違う。とくにトランプは独特のトランプ語であるから、ヴァンスがトランビズムをどのように展開する興味がある。
副大統領候補受諾演説から拾ってみた。ヴァンスは、「ウォール街に迎合するのは終わりだ。われわれは労働者に尽くす。脇に追いやられ、忘れ去られた労働者階級の国民のために闘う」と語った。
保守の共和党が、労働者階級を前面に押し出すのは新鮮である。社会主義が天敵で、反共イデオロギーに凝り固まっていた共和党が、あたかも労働党に宗旨替えしたようだ。これが正真正銘ならば、共和党の大転換である。
そもそも前の世紀から、アメリカ社会は巨大な経済的格差と、人種的偏見・差別が社会的問題の重低音である。忘れ去られた労働者を作ってきたのは、共和党自身である。不都合はすべて民主党におっかぶせるのでは、フェアではない。
選挙戦トランプ有利と見込んだ大富豪・大資本家が次々にトランプ支持を表明している。彼らが労働者階級のために尽力するだろうか。労働組合潰し、労働組合を作らさないように画策する経営者が多い。少なくとも、彼らはヴァンスの副大統領受諾演説など、気にもしていないらしい。
歴史的経緯、現状の動向をみるならば、ことはトランプが大統領に当選すればよいわけで、選挙戦では嘘も方便、勝つためには矛盾した言葉、空手形は無尽蔵に駆使するということだろう。
不動産で財をなしたトランプだが、彼自身が資本家・経営者として開明的であったという話は皆無である。見え透いた公約にコロリとまいる労働者は、なるほど人がよい。
ラストベルトの人々に小手先のサービスをする程度では、「労働者階級の」と大見えを切るほどのものではない。まして、労働者を白人に限定するのであれば、看板に大きな偽りありだ。むしろ、そうすることによって、ますます人種的差別が拡大する。
さらにヴァンスは、「アメリカの支配階級が貿易協定、外国との戦争によって自らの故郷のようなコミュニティを破壊してきた。」「イラクからアフガニスタンの戦争、金融危機から大不況、開け放った国境から賃金の停滞まで、政治家は失敗に失敗を重ねた。」と追い打ちをかける。
イラク戦争は、共和党のブッシュ大統領が始めた。金融危機から大不況へのページをめくった大本は共和党のレーガン大統領である。もちろん全面的にすべて共和党の責任だといわぬまでも、それらを民主党の失政として擦り付けるのは公正ではない。
アメリカの外交は、ペリーの浦賀来航(1853)に典型的なように、いわゆる砲艦外交である。脅して要求を貫く。この外交体質だから、アメリカは世界中に戦争の種をまき散らし、介入し、戦争に突っ込む。
しかも、第二次世界大戦以降は、アイゼンハワー大統領(在任1953~1961)が、離任演説で巨大な産軍複合体が政治を動かす危険性について警鐘を鳴らしたものの、その傾向をどんどん深めてこんにちに至っている。軍備拡張はアメリカ自身だけの問題ではなく、生産した武器を売りさばくために世界中が軍拡体制を推進せねばならない。
ヴァンスは大風呂敷を広げたが、世界中の戦争からもっとも恩恵! をうけているのがアメリカだという事実を、知らないか(?)、知っていて知らんふりして政敵を叩くことに熱中しているのである。もちろん、トランプ・ヴァンスが二人三脚で砲艦外交体質を変えるのであれば大歓迎だが。
ヴァンスは以前、トランプについて「アメリカのヒトラーになりかねないバカ者だ」と核心を突いたことがある。それが大転回して、「トランプは、最後で最善の希望の象徴だ」と語った。これ、ヴァンスの個人的変節にとどまらず、トランプ党に変節した共和党の堕落を、まさしく象徴している。
スーパーポピュリズムがトランプの性根である。手練手管は超日和見主義である。下駄の雪の日本政府に酷似しているといえなくもないか。