筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
米国共和党大会の模様は、文字や写真で見るだけでも異様な雰囲気が伝わる。
共和党内部はトランプ支持以外の異論を許さない気風が高まって、支持を表明する言葉も神がかり! になってきた。
いわく、神が選んで人物、神はトランプの守護者だ、という。政治団体というよりも宗教団体のお祭り騒ぎになっている。
ただし、これは共和党支持者内部の盛り上がりで、逆にそうでない人々の目には異様に映っている。アメリカ全体がトランプか、反トランプかのルツボにあるみたいだ。
もともと、トランプと陣営の戦略は、強い指導者を押し出すことであり、銃撃事件は、その具合のよいバックアップ材料になった。
選挙戦で候補者を持ち上げるのは常道であるが、トランプの過去の発言や行動をみると、それだけではすまない。
国内的には、司法界も支配下に置こうとしている。最高裁判所判事は、さきのトランプ政権時代に露骨に保守派優位の人事がおこなわれた。トランプがホワイトハウスの資料を持ち出した事件の公訴について、トランプが選任した裁判官が棄却したのがその大成果である。
トランプ個人の性格だけにとどまらない。人々を無批判に従わせることを、法的に推進してしまうのであれば、民主主義ではない。プーチンと相性がよいのは性格だけではなく、反民主主義、全体主義が共通するからだ。
MAGA(アメリカを再び偉大に)というスローガンが、国外に向けて発せられると、世界が非民主的な混乱に貶められる。
そもそも、アメリカが偉大でなくなったのは国内問題こそが大きい。他国の責任ではない。しかし、トランプにそのような視点は皆無である。
トランプが叫んだ団結は、自分の旗のもとに従えということでしかない。アメリカ政治はまさにカオス的、醜悪な混乱に突っ込んだというべきである。
すでに産業界はトランプ勝利を見込んで蠢いている。アメリカが実力を貶めたのは短くいえば国内の格差、各種差別そのものである。それを改善していく方向に舵を切らない限りMAGAはあり得ない。
1つの救いは、有権者の80%がカオスに陥っていると認識している。トランプ政治によって、過激派が政治に暴力を持ち込む懸念をもっていることだ。
大統領候補者が狙撃されるという事件が発生した後も、トランプ・バイデン両者の支持率関係はほとんど変わっていない。
いまの政治状況の行く末は、共和党が支配する者は、法を犯す力を手にするという民主主義末期症状である。
ルツボと表現したが、熱く燃え盛っている部分と、冷たく沈潜している部分に分かれている。