NO.1570
東京都知事選挙の有権者1153万3132人、やはり大きな選挙だ。投票日の前々日5日までの15日間に期日前投票した人は165万4402人、有権者の14.3%である。わたしは投票日前日に期日前投票した。
立候補者56人。投票用紙に記入する前、候補者一覧を眺める。さすがに壮観というべきか。投票する候補者は事前に決めているが、一覧を見るとその名前がなかなか見つからないくらい多い。うむ、親がつけたか、芸名かはともかく、立派な名前がぞろりと並んでいる。選挙公報はなにやら汚らしくて辟易したが、一覧表だけなら、それなりの雰囲気である。
その中から選ぶのだから、わたしは果報者だなどと、しばらく見とれて遊びそうになった。選挙ポスター騒動などはどこ吹く風で、選挙管理人の人々は厳粛な表情で並んでおられる。もたもたして、挙動不審で怪しまれてはいかん。いそいそ記入して投票用紙を投函した。
わたしの近辺の掲示板は選挙ポスターが12枚貼ってあるだけ、44人はポスターを貼らないのだから自他共に認める泡沫候補だろう。いや、お神輿の周りではしゃいで景気をつけるお囃子連というべきかもしれない。いずれにせよ、一連の騒動が、結果的に高い投票率につながるのであれば、それはそれで是としよう。まあ、悪いことばかりじゃないという気分で。
今回、わが耳には本命から最末端の泡沫まで、1人として生の音声が届かなかった。東京都は広い。たかだか2週間で、候補者の声が隅々まで届くわけはない。それに、そう言ってはなんだが、紋切り型ののっぺりした話を聞いても嬉しくない。と考えれば格別問題がないわけだ。
都知事選で誰が当選するか。どのような得票具合になるか。興味がある。本命の小池氏は貫禄十分、堂々たる構えであるが、自民党とは無縁だというポーズが、果たしてそのまま得票に結び付くだろうか。緑のタヌキと名付けたのは、群馬の角田義一衆議院議員(故人)だが、かなり定着している。
都知事選でいちばんやきもきしているのは自民党だろう。派閥裏金問題で半年も憂き名を垂れ流した。お得意の時間稼ぎ戦術でちんたらもたもた議会の審議をごまかし続けた。議会は数の力でやっつけられたとしても、人々の頭にしみわたった不信感が消えうせるわけはない。いつ、三行半を突き付けられるか。というのがいまの自民党がおかれた立場である。
イギリスでは労働党が歴史的大勝利で政権を獲得した。識者は、正しくは保守党の歴史的大敗だと主張する。その通りである。政権が移動するような選挙とは、政権与党の大失敗があるからこそである。政権与党がまっとうな政治をおこなっているのに対して、野党がさらに立派な政策提案をして政権を獲得するというような話は聞いたことがない。
与党の政権運営に対して、野党が、政策的に、より得点できることはまず少ない。しかも、報道される政治といえば与党の動向ばかりである。与党はつねに政治的露出度が格段に突出している。それに対して、野党の政治活動が大々的に報道されるのはきわめてレアケースである。
与野党が対等に報道されるのは、最近の事例でいえば、与党の不祥事に対する与野党の動きである。クレームが発生した場合、誠意をもって的確に処理すれば顧客の信頼が倍加するというのはビジネス世界の話だけではない。人間相互においても同様である。
ましてや、信頼があるゆえの与党であるから、裏金問題というクレーム処理について、きっちり、迅速に的確な処理をおこなえば、人々の信頼は倍増したであろう。ところが意に反して、彼らがやったことは正反対だ。自民党を地域で支えている世話役・党員が愛想尽かしする事態である。
フランスの総選挙決選投票の結果を見るまでもなく、マクロン与党の敗北は確定している。マクロン氏は人々の反右翼バネに大きな期待をしたが、人々は右翼だから投票したのではない。右翼であっても投票したのである。いかにマクロン氏が不人気な政治をおこなってきたか。宗教的権威主義が強烈なイランでも、改革派が大統領に当選した。権威を振り回す政治家は、いずれ劣らず人気を落とす。
都知事選の結果は今後の政治を占う手掛かりになるにちがいない。