筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
あれよあれよという間に、あっけなくも、労働党が爆発的勝利を握った。2019年に壊滅的大敗を喫した労働党は、再建までに10年はかかると予測されていた。それを5年で再建どころか、一気に政権奪取した。選挙に敗北するのが上手な労働党と揶揄されていたのだから、まさに画期的大勝利である。
党首で、新首相に就任するスターマー氏は、手堅く重厚な雰囲気だが、不器用で地味で大向こうをうならせるタイプではない。
経歴をみると、父親は工具職人、母親は看護師で、スターマー氏は家族ではじめての大学卒業者である。1987年から弁護士、2008年にイングランドとウェールズの検察トップに就任。政界入りは2015年で、2020年に労働党党首に就任した。それから4年後の成果である。
労働党は、1997年にブレア氏が「New Labour」を掲げて10年ほど政権を維持した。その後振るわず、2010年から長期低迷を続けていた。
今回の大勝利の最大の原因は保守党の自己崩壊ともいえる。とくに、ジョンソン首相時代の強引なブレグジット以来、政治経済の歯車がぎくしゃくし、ジョンソンはスキャンダルで退陣、以後短期間に次々首相が交代していまのスーナク首相が再建に立ち上がったものの、インフレ、財政難、税金問題、さらに国際問題に揺れ続けた。
労働党は保守党時代の厄介な問題をそのまま引き継がねばならない。おそらく、スターマー氏の頭には、1945年第二次世界戦後の大混乱期に「ゆりかごから墓場まで」を引っ提げて挙国一致体制を作った労働党アトリー内閣の歴史が描かれているのではなかろうか。
たとえば世界に誇る国民保険サービスNHSが機能不全を起こしている。都市部での住宅費の高騰が人々の生活を苦しめている。まず、これらに着手するものとみられるが、非常に厄介な問題であり、舵取りが注目される。
もともと英国人は堅実で、政治的にも堅実な判断をするとされていた。この10年ほどの保守党政治家は大言壮語が目立ち、しかも目立った成果をあげなかった。人々が堅実な政治へ戻ろうとしたとも考えられる。
ジョンソン氏は、トランプの物まねをするような面もあった。米国は相変わらずトランプ旋風が止まないし、国民的分断が指摘されるが、議会政治の老舗英国が一足早く立ち直るかどうか。英国政治の帰趨は、欧州で吹き荒れているポピュリズムと極右の政治動向にも影響を与えるのではなかろうか。