筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
地方自治体法改正案が審議入りした。大規模災害や感染症流行の場合など、国が自治体に指示権を行使するという。ただし、いかなる事態を想定しているかは答弁していない。
憲法第92条は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める――と明文されている。なにも、国がいちいちしゃしゃり出なくてもよろしい。根本的には憲法違反のおそれがある。
実際、なにを考えているのかわからない。少なくとも、国が積極的に地方自治に介入しないために大きな問題が発生したとは考えられない。
むしろ、コロナ流行のはじめ、安倍氏が突然公立学校の休業を表明して騒動になった。バカなマスクを配ってみたり、国がやらねばならないことをもたついて、脱線した事例はすぐに思いつく。
もちろん、国に指示権を認めなければ具合がわるいというケースは容易に思いつかない。だから、拡大解釈して、地方自治の独立性・自主性を縛るのではないかという疑問が沸くのは当然である。
常識的に考えれば、世界の情勢が混沌としているし、わが国の経済力の低迷が著しい。予算は返済不可能な借金で組み立てている。国民生活の柱としての社会保障制度をどうするか。頭上は大火事ではないのか。
地方自治に手を突っ込んで摩擦を起こすのではなく、自治体の裁量を自由闊達に揮ってもらうのが本筋である。
トップダウンは効率的にみえるが、そもそも天才的政治家ではなく、天災的政治家だらけの国が形だけ作ったところでメリットはない。
理論的にいえば、民主政治における中央集権制度の強化は、民主パワーを骨抜きにする。こんなことだから、過疎問題の改善が進まないのは当たり前だ。
政治権力の中枢にいる(と自負している)人々は、もっと自分自身を見詰め直す謙虚さが必要だ。謙虚であれば、自分たちがこの国をだめにしてきたことがわかるはずだ。