くらす発見

Glenfiddich18

筆者 難波武(なんば たけし)

 昔々の話である。英国に納品する製品の塗装はそちらの規格でなければいけない、というのでK氏は客先に問い合わせたが、教えてくれない。

 まだ、日本製品は安かろう悪かろうといわれた時代である。指定の塗装を施さねば納品できないので、困った。

 工場へ委細連絡すると実物があれば分析して同じものをつくれるという。そこで、K氏は塗料の実物をこっそり手に入れた。ところが、飛行機内に簡単に持ち込めない。

 おりから年末が近かったかどうか記憶にないが、ウイスキーの瓶に入れたら、塗料とはわかるまいと思いついた。(昔の話である)

 さっそく、高級ウイスキーを購入。中身が入っていては塗料を入れられない。えいやっと、当時は飲んだこともなかった液体をすべて飲み、啜った。

 幸い、機内持ち込みも無事、やがて塗料は分析されて、英国規格のものをつくり、製品を完成させた。

 そのウイスキーは、深い緑色の瓶のグレンフィディックであった。

 年末、新聞の1ページ全面広告でグレンフィディックをみて、思い出した。K氏は数年前に他界された。例年、年末、2人で小宴会を開催していた。われわれが飲むとき、K氏はいつも灘の生一本をお飲みになった。