論 考

横溝正史的世界

 いやはや、古い。古すぎる。小説ではないのだから。

 岸信夫氏が引退して、衆議院山口2区の補欠選挙に息子の信千代氏を跡目に立候補させた。典型的な世襲政治家コースである。

 そのホームページに岸・佐藤・安倍の家系図を掲載したという。

 わたしは1963年まで島根県の石見地方で育った。いちばん鼻持ちならなかったのは、いわゆる旧家意識があちらこちらに残っていて、その家の人々がなんでも仕切りたがり、ご高説を垂れたがることだった。

 もちろん世代交代するから、鼻持ちならぬ現象は徐々に薄らいでいた。

 家系図を選挙で引っぱり出したという新聞記事を読んで、瞬時に60年前が蘇った。笑えないドタバタ劇みたいだ。

 なるほど、社会の上面は日々に騒々しく新奇さを感じたりするが、その底流たるや、ちょっとやそっとでは動かぬ固い泥地なのだなあ。

 これ、怨念の一種にも見える。横溝正史的世界か!

 社会の底流を見つめる力をもっと確実に養わねばならないぞ。