週刊RO通信

有識者は、有識者か?

NO.1487

 どなたさまも、「なんで防衛費がGDPの2%なのか?」と疑問を抱かれよう。2022年度は5.4兆円で1%、2%なら11兆円(780億ドル)になる。軍事費をみると、①アメリカ8,010億ドル、②中国2,930億ドル、③インド766億ドル、④イギリス684億ドル、⑤ロシア659億ドルであるが、一気に世界3位に駆け上がる。

 経済大国気分はどこかへ行ったが、代わりに軍事大国として台頭する。記録マニアは喜ぶだろうか。ただし、そんなものが、大きいことはいいことだとはならない。2%論者はよほどの神経過敏か、多くの人が知らない事実を握っているか。冷静さを失っているのではあるまいか。

 国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議(座長・佐々江賢一郎)の報告書が22日に発表された。有識者とはその分野に精通し、見識が高い人である。無識者と対比すれば、有識者は輝く星みたいである。高度な頭脳から提起された見識を拝読したが、あれれっ、こんなものですか。

 論議の前提は「防衛力の抜本的強化」であって、戦争しない、平和を作っていくという目的・戦略からすると、まあ、戦術レベルである。いわく、「わが国周辺の安全保障環境は厳しさを一段と増しており、5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない」そうだ。なぜ5年なのかもわからない。

 政治家も、ロシア・中国・北朝鮮を並べて危機だ、危険だと語るが、選挙活動の際の連呼と同じで、その具体的中身、とくに、日本のなにが他国によって軍事攻撃の対象になるのか説明する人はいない。ロシアはウクライナで戦争を始めたが、日本を攻撃する理由があるのか? 中国とは尖閣諸島で領土防衛ごっこをやっているが、癇癪起こして中国が日本に侵攻するだろうか? 北朝鮮のミサイルは、いったい日本のなにを狙っているのだろうか?  その程度のことでも、ほとんどの人が知らないだろう。

 政治家や有識者が、安全保障環境の厳しさを理解しているのであれば、まずは、その仔細を人々に説明するのが筋道である。任せておけ、黙ってついて来いというのでは、それこそ危なくて仕方がない。戦前戦中の苦い歴史体験がある。気がつけばすでに大戦争、戦争開始してからも、嘘の報告ばかり、果ては一億玉砕だという。全員蒸発すれば問題はあっても、ないわけか!

 状況に応じて臨機応変のリーダーシップを発揮する支配者はいなかった。失礼を顧みず言うが、日本の外交に性根が入っているだろうか。絶対に戦前の愚を繰り返さない決意と行動があるだろうか。ロシアは突然ウクライナへ侵攻したが、中国・北朝鮮の事情は昨日や今日降って湧いたものではない。たとえば、尖閣問題に例を取れば、外交部門が「つまらないことはお互いに止めましょう」と交渉をしているのか。戦争の芽を育てていないか。

 佐々江座長は外交官出身であるから、氏の本来の有識は、外交にこそありだろう。尖閣問題が緊張緩和へ向かえば、有識者会議の前提は大きく変わる。いや、外交を本業とした座長が、外交ではなく、防衛省の下請けのごとき軍事力強化をぶつのであれば、なにをかいわんや。軍事力をもって軍事力を制しようとすれば戦争になるくらいのことはご承知のはずだ。

 有識者会議はジンゴイストの会合ではない。ここで本来議論の俎上に載せるべきは、「厳しさを増した安全環境の原因・本質は何か?」という原則である。原因・本質を、あたかも天変地異のごとくに、仕方がないものと扱って、対策を講じようとすれば、外交抜きの軍事力という低次元に嵌る。

 有識者会議は、反撃能力や、防衛装備移転(軍事産業強化)を提起するが、これまた従来から無鉄砲なジンゴイムズ連中が喚いていることであって、これでは、次元の低い政策を有識者会議なる「権威」が論議して認知したというお墨付きを与えるようなもので、有識者の見識を疑わざるにはおられない。

 反撃能力を強化しても、相手がビビッて止めるというわけはない。反撃すれば、それが戦争の開始である。軍事力を強化することは、軍事力外交=戦争ゲームに参加する意思表示である。高額資金と知恵を投入して、わざわざ戦争へ突っ走ろうとするのと等しい。「戦争は、戦争を体験したことがない人間にとって心地よい」(エラスムス)という言葉はまことに重たい。このままズルズルと泥沼へ嵌るのはご免だ。