イギリス新首相スナク氏について、本日の社説を見る。読売は「英国の安定をどう取り戻すか」、毎日は「混乱収拾に指導力発揮を」と、まあ格別の光がない内容を掲げている。
スナク氏は、経済が安定と信用を失っていると短くまとめて指摘したが、これは大事だ。
それが意味するのは、19世紀後半に、ヴェブレン(1857~1929)が、「企業者もしくは資本家は、人類にとって有用な財貨の生産よりも、むしろ財貨の販売による企業利潤の極大化を目的として経済活動をおこなう」、そして、「企業経営は生産の専門家ではなく金融の専門家に委ねられる」と予測した通りに進み、なおかつ金融はカジノの様相が著しい。
スナク氏は成功した金融専門家である。保守党内部では格別の違和感はないだろうが、2016年にキャメロン元首相がブレグジットへ踏み切ったのは、金融化した経済が国民生活と離反しており、保守党の地盤がずるずる崩壊しつつあったのを、いわば目くらまし作戦のバクチに打って出て、人気挽回を図ったのである。
周知のごとく、その後国民の中ではブレグジットは間違いだったという気風が高まってこんにちに至っている。
つまり、イギリスがブレグジットで招いた経済的・社会的不全に加えて、物価・コロナ・ウクライナ戦争への対処を迫られている。トラス氏がしくじったのは、いわば資本主義の自由放任へ歩もうとしたのである。
スナク氏が、財界、とりわけ金融界の信頼が厚いにしても、国民の共感を得られる政策を展開するためには、財界・金融界が、ヴェブレンが指摘したことの意味を重々考えてスナク氏を支えられるかという大問題がある。
日本的政治のトンチンカンに慣れていると、大事なことが見えない。本日の社説もその1つである。