論 考

もうそのときではない

 古代ギリシャ7賢人の1人とされるタレス(前6世紀前半の人)が、母親から無理に結婚を勧められたとき、「まだそのときではありません」といなした。数年後また結婚を迫られて、「もうそのときではありません」と答えた。

 イギリスのジョンソン元首相が、トラス首相辞任をうけた党首選出馬に意欲を見せていたが、立候補締め切り直前に断念して、出馬すれば自分がダウニング街に戻ってくるのは確実だが、「いまはそのときではない」という結論に達したとスピーチした。

 ギリシャの賢人を模したつもりのようだが、正しくは「もうそのときではない」という認識が正しい。そもそもいまの保守党内部の混乱を引き起こしたのがほかならぬ自分だという認識がない。権力ボケも甚だしい。

 スナク氏が、党首当選で、首相になる見込みだ。同氏の絵に描いたような経歴は素晴らしいが、保守党の無能さと派閥争いが解消したのではない。労働党に支持率で30%も差をつけられているから、選挙をやれば保守党は政権掌握どころか惨憺たる結果を招くのは必然だ。

 なんとかスナク氏で首をつないで、党勢回復を期すというのが本音であろう。つまり、選挙恐怖症が、スナク首相誕生の理由である。

 トラス首相が踏んだ虎の尾の始末もあるが、民意を反映していない政権たらい回しへの批判も大問題で、まだまだ一件落着とはなるまい。保守党政権自体が「もう、そのときではない」からである。