論 考

欧州政治の危機

 事前予想通り、イタリア総選挙は、メローニ氏が率いるイタリアの同胞(FDI)が断然トップの票を獲得した。

 FDIは極右政党で、このまま推移すれば同じ右翼政党であるサルヴィーニの同盟、ベルルスコーニのフォルツァ・イタリアと連立内閣を構成する。

 イタリアの首相は第一党からとは限らず、大統領が指名するのでまだ確定ではないが、リベラル陣営の足並みが乱れており、さきにドラギ首相が選ばれたような具合にはいかないだろう。

 FDIの勝因はかなり明確だ。コロナ問題・関連する多数の企業の倒産・物価高騰の三点セットで、右翼政党は政権を強烈攻撃した。

 イタリアにおいても、国民の保守主義はかなり強い。それに乗っかって、徹底的に危機を煽り、人気を獲得した。ただし、彼らの政権運営能力は不安定である。

 しばらくは、危機を煽り続けて責任転嫁することにより、政権を維持するだろうが、いずれボロが出る。そうならない場合は、国民自身が右翼政党と同様のちゃらんぽらん政治感覚で事足れりとするわけで、イタリアは政治的不安定の波に翻弄される可能性が高い。

 いまどきムッソリーニを信奉するような若い政治家が高い支持を獲得するのは、単に保守の心理だというわけにはいかない。イタリア人もまた、政治より政局騒動を好むみたいである。

 メローニ氏は、反EU思想である。反移民、反LGBTQ、中絶の権利否定などを主張してきたが、これをストレートに出した政権運営をすれば政治的不安定の波は嵐を呼ぶだろう。

 つまり、歴史的、科学的、そしてなによりも「人間の尊厳(人権)」を大事にするべき現代の政治家ではない。欧州政治もまた、第二次世界大戦以後最大の反動期に入っていることが危惧される。