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税制改正・社会保障改革と日本の未来

 先般、講師の税理士先生から2023年10月1日施行予定のインボイス制度、2024年1月1日施行予定の電子帳簿保存法について講義を受けた。当初の施行予定から延期したとはいえ、コロナ禍で売上回復に苦しむ中小零細企業にとっては、データ管理が煩雑で、有料の会計ソフトの導入も考えなければならぬ頭の痛い問題だ。政府からは、「補助金を活用してください」とのアナウンスがあるようだが、各企業にとっては、まずは売上回復が先決事項である。電子帳簿保存法では、税務調査を容易にするため検索しやすい形でのデータ保存を要求するが、そもそもその前に企業自体が成仏してしまっては元も子もない。

 日銀の行き過ぎた金融緩和により1ドル145円の円安で原材料費が高騰している。消費者の給料が上がっていない以上、商品やサービスに価格転嫁も十分にできない。売上回復が見込めない段階での最低賃金引き上げの要請も中小零細企業にとっては頭が痛い問題であるし、そもそも人手もなかなか集まらない。またコロナ禍で融資を受けた企業はいつまでにどう見込みの売上げをつくり返済をしていくか頭が痛い状況にある。返済が滞りコロナ関連倒産はこれからが本番ではとの憶測もある。

 ネット上では「利益の出ない中小零細企業は潰れればよい」との論調もあるが、筆者は必ずしもそうは思わない。先達からの稀有な伝統技法を受け継いでいたり、これから大化けする素材があったりする企業もあるからである。また小さい商店の方が、小回りが利く場合もある。建造物からみても、古民家商店はいまでは入手困難な建材を使っていたり、趣きがあったりで、文化的価値もある。さらにいうと、中小零細企業だからといって必ずしもブラック企業とは限らない。

 大きい企業だけが残れば生活に支障はないのか。先日、久々に近くのスーパーイオンに行ったが、このコロナ禍でスーツ売場が消滅し、ワイシャツの品揃えも極端に少なくなっていた。企業の「選択と集中」という命題のもと、地域住民にとって必要なサービスも削り取られていくのである。ここ数年で生活インフラの縮退を実感している。

 思うに、今回のインボイス制度は小さな事業者からも消費税の徴収を確実にする、電子帳簿保存法は税務署が税務調査をやりやすくするという財務省・国税庁・税務署のお役所目線のツールと感じてしまうが、この国の将来を考えた際、経済弱者への税徴収に血眼になることよりもっと大事なことがあるのではないか。

 総務省の発表で、2100年には日本の総人口は最悪3770万人になるとの予測がある。人口が減り国内消費が減るのに、さらに消費へのペナルティである消費税を課す理由はなんなのだろうか。一方、2020年度だけでトヨタ自動車をはじめ日本を代表する輸出大企業10社には1兆2000億円超の還付金が生じている。輸出取引は日本の消費税の課税対象外であり、あくまでも負担した消費税分の還付だそうだが、果たして消費者・中小企業からみてどう映るのだろうか。

 さらに、財務省が安定財源とする消費税が増えた分、法人税が削られているわけであるが、大企業であっても租税優遇措置等があり、法人税を払っていない企業もある。消費税増税よりも法人税の見直しがまず先なのではないか。この点、大企業への租税優遇措置等は技術力向上と投資促進のためであってしかるべきものとの意見もある。しかし、いくつかの大企業が発展しても、国内事業者の99.7%を占める中小企業の多くが淘汰されまたは外資に買収されるようではこの国に未来はない。安倍政権下でのトリクルダウンも結局は幻想に終わった。毎年の改正税制大綱はこの国の一部の大企業のためのより有利なルール変更にしかに思えてならない。

 政策金融公庫や中小企業庁は創業サポートに力を入れている。しかし、前述のとおり、税制面での制約が増える中、果たしてリスクをとって新規に創業したいという者は増えるのだろうか。国内での産業空洞化を促進するのではなく、現場の状況を踏まえ、国内消費が活発化し消費者である日本国民が増えるような税制改正を再考していただきたい。

 ちなみに令和4年の国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計)も46.5%と高い。非正規雇用者・フリーランスが増加して、社会保障制度が時代に合っていない。同一労働同一賃金が叫ばれているが解決されていない。経済的格差が大きいままでは国全体でのイノベーションは起きないし、少子化は止まらず国は衰退に向かう。現に、日本では高い給料が望めないからと海外への出稼ぎ労働者も増えているようである。海外金融商品への投資も増えている。オランダは短時間労働者も正規雇用者であり、同一労働同一賃金も適用され、社会保障の手当も厚く、人口増加が続いている。海外の成功例も踏まえて政府には政策決定をしていただきたいし、私たちも今後の動向に声を上げていきたい。


渡邊隆之  ライフビジョン学会 会員