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プーチンの戦争と日本の民主主義

渡邊隆之

 2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻は半年が経過した。2014年のクリミア併合のように短期決戦で終結しなかった。戦う両国の犠牲だけでなく、世界各国のエネルギー問題、食糧問題、経済問題など様々な方面に悪影響を及ぼしている。

 今回のロシア軍のウクライナへの攻撃は、国連憲章や国際法規に反するものばかりである。ロシア国内でプーチンの暴走をなぜ抑止できなかったのだろうか。それはプーチンが2014年のクリミア併合以前から、着々と自らの地位を強固にしてきたことに起因すると考える。

 とりわけ、2020年7月6日施行の改正ロシア連邦憲法である。改正概要としては、①大統領の地位の強化、②国際法に対する憲法の優先、③領土割譲の禁止、④家族等に関する保守的思想がある。

 ①については、大統領の権限を強化し、大統領は政府議長(首相)を解任できる。また、政府副議長や国務大臣、司法大臣等の大臣に対する人事権について政府議長の関与が廃止された。大統領の任期に関する再選については「同一人物が2期を超えてロシア連邦大統領を務めることはできない」との規定があったが、「任期規定は、過去にロシア連邦大統領であった人物、現在ロシア連邦大統領である人物」には適用されないと規定された。これによりプーチンは大統領として理論上2036年まで続投可能となった。

 ②については、解釈がロシア連邦憲法に合致しない条約に基づいた国際法はロシア連邦内では執行されない。

 ③については、「領土の統一性」を定め、ロシア連邦領土の割譲を目的とする活動を禁じる。政府が領土割譲に関する交渉の場に就くこと自体も禁じている。

 ④については、家族・夫婦の在り方の多様化という世界的な動きに逆行し、同性婚は認めない。また、歴史観及び思想の統一を定め、政権解釈と異なる歴史観や思想は事実上制限される。

 さらに2021年9月17日から19日に行われたロシア議会下院選挙ではプーチン政権を支える与党統一ロシアが単独で憲法改正ができる3分の2以上の議席を確保した。この背景には有権者へのバラマキや、ナワリヌイ氏逮捕などにみられる反体制派野党に対する弾圧強化があった。

 Abemaニュースを視聴して驚いたのは、この選挙の際、電子投票への呼びかけが盛んに行われ、電子投票に参加すると懸賞として車やアパートが当たるというものだったそうである。電子投票であれば集計結果がすぐに出そうなものだがなかなか結果が出ず、投票所投票での結果で反体制派優勢だった選挙区が電子投票の結果が反映されたとたん、形勢が逆転する選挙区がいくつもあり、電子投票結果書換の不正疑惑も出ている。また投票所での投票も不正投票への監視が甘い状況で実施された。

 ウクライナ侵攻については、ロシア軍やプーチンを支持したロシア国民への批判も高まっているが、高い支持率や投票率について、その数字を額面通りに受け取ることはできない。選挙の公正さが担保されず、集会デモ等が著しく制限されている状況下だからである。

 日本では政治不信に起因し選挙での投票率が上がらないが、隣国の状況と問題点を踏まえ、まずは有権者の政治リテラシーを上げることが必要である。それは、熟考したうえで、①選挙に行く、②選挙後も政治への監視をする。いずれかが欠けると、自分を取り巻く生活環境の悪化を招くことになるからである。

 わが国では、いま安倍晋三氏の「国葬」への賛否が騒がしいが、現行憲法下ではかつての国葬令は失効し、「国葬」実施及びその経費を全額国費から支出することについての法的根拠はない。

 政府は、内閣府設置法4条3項33号の「国の儀式」にあたり法的根拠はあるとするが、そもそも内閣府設置法は内閣府の所掌事務を定めたものにすぎず、また、その「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠はない。

 筆者は、内閣府設置法を眺めていて気付いたことがある。内閣府設置法3条2項には内閣府の任務として「カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保」の文字があるではないか。「国葬」が内閣の閣議決定のみで可能とするなら、カジノの設置も、国会の十分な審議を経ず実施可能ということなのだろうか。それは、憲法41条の趣旨からもおかしいであろう。

 民主主義は過程が大事である。過程が歪むと、国内情勢のみならず、平和主義も歪む。国民1人ひとりが政治リテラシーを高め、しっかりと政府を監視していきたいものである。


渡邊隆之  ライフビジョン学会 会員