週刊RO通信

平和と繁栄どころか戦争と貧困だ

NO.1463

 5月23日の日米首脳会談後、岸田氏は、「自由で開かれた国際秩序を構築するため同盟国や同志国と結束する。もっとも重要な戦略的課題は、インド太平洋地域の平和と繁栄の確保であり、日米が主導的役割を果たす」と語った。これが、アメリカの中国包囲網であり、中国の影響力を抑止し、さらに排除をめざしていることは十分に読み取れる。

 外交に絶対的正解はない。関係国が選択した行動が積み重なってその結果が形成されていく。だから時間が経過して、1つの結果が出て、事実によって証明されるまでは当否の判定はできない。

 しかし、アメリカを軸とした同盟国・同志国が結束して、中国を包囲・抑止・排除しようと仕掛けているのだから、中国が心穏やかなわけがない。つまり、中国を巡って緊張が高まる。インド太平洋地域の平和と繁栄という戦略的課題へ向かっているどころか、地域をかき混ぜて国際的対立を深める。こんなことは素人にもわかる流れである。

 国際秩序というならば、政治的・経済的に堂々たる大国である中国を除け者にしては成り立たない。アメリカ抜きの世界があり得ないように、中国抜きの世界もない。平和と繁栄という目的に対して、逆方向へ進むのと同じだ。もちろん、これは理屈である。ものごとが理屈通りにいかないことは多いが、目的と方法が正反対では、はじめから道を間違えている。

 大事なことは、中国が好きか嫌いかではない。3人寄れば派閥ができるというが、自民党内部の派閥とはわけが違う。牙を持った国と国の関係である。中国が力を背景としてアメリカ基準の世界を転覆するために、虎視眈々狙っていると規定しているのだろうが、その流れでいくと、行き着く先は力対力の摩擦・衝突である。

 台湾海峡の平和と安定を平和的に解決するべしと言いつつ、日米同盟の抑止力・対処力を早急に強化すると主張する。そこから日本の防衛力の抜本的強化説が頭をもたげ、5年以内に防衛費をGDPの2%に引き上げるとする。これもまた剣呑な話だ。日本は貧乏一直線ではないか。

 中国包囲網の外堀がAUKUS(豪・英・米)で、城の水攻めに相当するのがIPEF(インド太平洋経済枠組み)とQUAD(日・米・豪・印)、尖兵が日本の防衛力強化という狙いに見える。2%の大盤振る舞いは、宮古島・石垣島など南西諸島を日米共同基地化して、島の空母を建設する。日本の防衛なんだから、おカネは日本が負担せよという日米阿吽の呼吸みたいである。

 アメリカは、日本防衛への関与を改めて表明したことになっているが、それは当然至極で、台湾防衛へのアメリカの最先端基地を日本が果たす。日本をアメリカが守ってくださるというべきか、ここでも日本がパシリの役割を果たすというべきか、いずれにせよ、台湾(日本ではない)防衛の構図に日本が全面的に取り込まれる。すでに、専守防衛の構図ではない。一朝事ある場合は、日本が、ありがたくもかたじけなくも、名誉ある先陣を承る。

 岸田は頼りない、からっきしだというおちょくりもあるが、ふにゃふにゃしつつ、どんどん突き進む。この形勢は、沖縄だけではなく、日本全体である。1983年中曽根氏が訪米して、ワシントンポストのインタビューで日本列島不沈空母論を語った。39年後岸田氏がそれを実現する。ハードだけではない、日本外交はアメリカ外交の一部である。愛国者揃いの自民党が、いかんながら買弁的に見えてくる。

 バイデン氏は、世界を民主主義対権威主義に区分した。権威主義より民主主義がよろしいとは誰でも思う。しかし、民主主義を高唱しつつ軍事力を軸とした外交を進めるのだから、実は、立派な軍国主義である。自民党が買弁的軍国主義に見えるのは、なんともいたしかたない。アジアにNATOは不要だ。開かれた国際秩序を語るならば、国際間に分裂を持ち込んで固定化をめざすのではなく、開かれた貿易体制を推進するのが正しい道だ。

 日本外交は、好んで国家の価値を貶めているようにしか見えない。軍事力なんてものは、緊張を高める最大のガンである。軍事力で有事が解消することは絶対にない。有事を招くのが軍事力である。大局観なき半端なリーダーはウクライナ戦争からも、なにも学んでいない。危なくて仕方がない。