週刊RO通信

ポピュリズム政治の末路

NO.1451

 バイデン氏は、プーチン氏を、「戦争犯罪者」「殺人的な独裁者」「悪漢」と罵倒した。プーチン氏が、ウクライナでおこなっていることは、そのような最大級(?)の罵詈雑言をもってしても、留飲が下がらない。

 プーチン氏は、「ウクライナが戦争犯罪をおこなっており、ウクライナのナチの人質市民を救う」と語っており、膨大な破壊と殺傷の非人間性を顧みない。ハーグのICJ(国際司法裁判所)が、「ロシアの軍事行動即時停止命令」を発したが、これもまったく無視している。

 背景に、第二次大戦以来の、欧米対ロシア(ソ連)の対立の構図がある。ソ連を核としたワルシャワ条約機構が解体し、旧メンバー国が次々にNATOへ加盟して、残ったのは、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバだけである。ロシア周辺国に米国の中距離弾道ミサイルが配備されている。

 プーチン氏は心細く、不安である。安心しておちおち眠られないという精神状態にあるとしても、軍隊を動かして相手を攻撃するのは、自分が相手に抱かせている不安を棚上げしての一方的言い分であって、当然の行為とはいえない。過去の経緯からして、ロシアに理解ある人も、ない人も、現実に侵攻すると考えていた人は少なかったはずだ。戦争で理屈は破綻する。

 ウクライナをプーチン流で「懲罰」して、人を殺傷し国土をガタガタに荒廃させることが、NATOに対する防御の成功になるはずがない。ウクライナを兄弟だと麗しい表現をしつつ侵攻することに、いったい、どんな建設的意義があるのか。おおかたのウクライナの人々が、ロシアの暴力によって、自分が間違っておりましたなどと「改心」するとでも思っているのか。

 伝えられるように、極めて短期間に首都を陥落させ、傀儡政権を打ち立てるつもりだったのだろうが、プーチン戦略は、根本的に失敗した。賢明なオツムであれば、停戦・和平の流れを急ぐ。現実は、戦線拡大、破壊と殺戮行為の拡大であって、実のところ、プーチン自身が自己矛盾に陥っている。

 おおくのロシアの人々は、ウクライナ侵攻の真実を知らないと報道される。あるロシア人は、3割は知っている。1割は熱烈プーチン支持だ。残りは、なんとなくプーチンを信頼していると分析した。3割の一部が反戦行動を起こして抑圧されている。残りは、いわゆる「アパシー」だろうか。

 プーチン原作・脚本・演出・出演の物語は、虚構であり、フェイクによるプロパガンダが柱である。ロシア国内では、それなりに見物人がいるとしても、ロシアを除く世界では、とんでもない芝居だという評価でしかない。ロシアの虚構を打破するのは、1つは時間だろう。「正義の戦争」に駆り出されたロシア兵の死亡が7千人以上、負傷が最大2.1万人との報道もある。やがては、ロシア国内にも拒絶反応が起こるにちがいない。

 ロシアに対する国々の経済制裁の効果が出ている。経済制裁も軍事力そのものではなくても、いまや、戦争の手段である。しかし、対抗して直接的に軍事力を行使しないのは賢明である。軍事力対軍事力になれば、破壊と殺戮が目的化する。破壊と殺戮は、知性も理性も失わせる。すなわち、人間の尊厳を放棄するのだから、反民主主義であり、人類の普遍性に背く。戦争拡大に伴って戦争が目的化する。ますます収拾困難になる。

 軍事力を駆使すべきだという声が高まらないのは、1つの光明だ。戦争のもっともいやらしい面は、人間性や知性が退行することにある。プーチン氏は、軍事力を外交に優先した。それに引き込まれたくはない。対する側は、外交攻勢を掛けねばならない。バイデン氏は、プーチン罵倒に精出すのではなく、国連を担いで、堂々たる外交を起こしてもらいたい。とりわけ、中国を仲介に登場させるように、三顧の礼でもなんでもやるべきだ。まちがっても、中ロ一括りに追いやる愚は冒さないでほしい。

 プーチン氏の暴挙は、つまるところ国際政治の安定や、ロシア国民の生活向上にはない。いかに知恵を絞って戦略を立てたつもりでも、戦争は人間の命を捨てさせる。相手国だけではない、自国の人々も命を失う。国家の名を騙った成り上がりの権力亡者の仕業でしかない。まともな世界観・人間観のない連中による政治がポピュリズムである。国家主義とポピュリズム政治の末路は、人間の尊厳を失わせることである。