みんなのコラム

戦争の狂気! 露軍の原子力発電所攻撃

元原子力行政関係者

 ニュースを聞いて唖然とした。まさか露軍が原子力発電所を襲撃とは。まさに青天の霹靂である。改めて「本当の戦争というものは、何でもありなんだ」と実感した。私の持っていた常識が一気に覆された。
 通常時の攻撃において、原子力発電所を攻撃するなどは愚の骨頂である。攻撃された方は、必死に抵抗して手が付けられなくなる。だが今回は制空権を握ったうえで、反撃されない状態で原子力発電所を狙った。こんなことは、自爆テロと同じ無茶苦茶な行為だ。仮に成功してしまうと、相手国だけではなく、攻撃側にも放射性物質が降りかかり、悲惨な結果となる。少なくとも優勢にある側、ほぼ勝ちそうな側のやることではない。劣勢を挽回したいが、手段がない時に、「死なばもろとも」の気持ちとともに仕掛けるものだ。
 そういう意味では、North・K国の主張が正しかったことになる。もう、どうしようもない劣勢を核兵器をもって一発逆転、もしくは、「こっちは滅びますけど、お宅の首都を地獄に変えます」という差し違えにもっていくことができる。現在の科学では、核兵器を除いてこのような芸当はできない。もしかしたら、生物兵器、化学兵器も可能性はあるが、広範囲を一挙に焦土と化すには、やはり核兵器が一番だろう。
 もはや理性もへったくれもない。露軍の原子力発電所への攻撃は、戦争が生み出す狂気としか言いようがない。
 なぜこのような攻撃形態をとったのか、検証が必要だとは思うが、この戦争が終結しても答えは闇の中ということになりそうだ。
 想像するに、もともとの作戦司令は原子力発電所を制圧せよとか、送電線を破壊して、電源の供給を止めよ、とかいうものだったのではないか。ところが現場が指示の取り違えを起こしたのか、暴走したのか? 原子力発電所を破壊すれば、自らも放射能をかぶることになるのに。優勢に戦っているのだから、リスクテイクする必要はない。まったくわからん。まだ、第二次世界大戦の日本の特攻の方がマシに見える。
 露、中、韓と国境問題を抱えている日本は、もはや安心できない。
 無意味な原子力発電所への攻撃があるとすれば、もはや核兵器でカウンターを取りに行くしかない。制空権を取られても核兵器は一瞬のスキをついて放つことはできる。それくらいの抑止力がないと、原子力発電所を守れないとは、世も末だ。原子力発電所の破壊は、戦争に関係のない第三者にまで迷惑を及ぼす。核兵器、化学兵器、生物兵器の使用とともに、放射性物質を内包した施設への攻撃は、禁止にすべきだ。チェルノブイリや福島第一の事故で環境がどうなったか、知らないわけではあるまい。
 憲法9条も相手に利用される可能性を秘めている。仕掛けて反撃されたら、「あれ~、反撃していいのかな。憲法9条があるんじゃないの」と相手に言われそうである。それくらいはやってくる。
 ウクライナは、外交に失敗したのかもしれないが、我が国とて、武器を持たぬ小国という意識で、平素より危機管理しておかないと何が起きるかわからない。もはや、遺憾とだけ言っておればよいような状態ではないと考える。
 本当に日本には何も起こらないのだろうか? 思考が読めない相手と外交しているというように、用心に越したことはない。
 私には、原子力発電所の攻撃を契機に、遠くで起きている戦争とは思えなくなり、また、日本は無関係にあるとは思えないような展開であった。いつもなら、改善の具体策の一つも書きたいところだが、本件に対しては出口が見えない。なんで勝っている方が自爆テロみたいになってしまうんだ?