週刊RO通信

場当たり的経済運営を改めよ

NO.1442

 日本では、ここしばらく物価問題が話題になることはほとんどなかった。1980年代までは、庶民にとって経済といえば物価であり、物価上昇に最大の関心があった。日本銀行の最大任務は、物価高騰を抑えることにあったが、2010年代はじめから日銀がインフレへの旗を振ってきた。

 こんにちでは、ひさびさと言うべきか、物価動向に注目する必要がある。すでにいくつかの商品の値上げが発表されている。目下物価を押し上げている要因は、国際価格の上昇と、円安である。この2つの要因からすると、物価上昇の流れに入ったと見るべきであろう。

 日銀によると、国内企業物価指数は、前年比で8.5%増である。輸入物価指数は、前年比で41.9%である。最大の要因は原油価格で、直近のWTI原油は82ドル/バレルである。原材料も高騰しており、エネルギーや原材料価格が下がる可能性は見当たらない。

 直近の値上げ理由は、エネルギー・原材料コストと、物流コストの上昇が指摘できる。物流コストを押し上げているのは、ガソリン代と運転士不足である。物流に限らず働き手不足は深刻である。コロナ感染拡大で、とりわけ外国人労働者雇用はきわめて制限された事情にある。

 ドルと円の関係は、目下1ドル=113円~114円という辺りだが、今後はさらに円安へ向かうというのが大方の予想である。アメリカのFRBは、3月から利上げをおこなう見込みで、さらに金融緩和で増加した保有資産を縮小する流れにある。物価上昇が著しいので、金融引き締めに向かっている。

 ところで、日銀は、相変わらずというべきか、国内の物価上昇は一時的だと見ているらしい。インフレ・ターゲッティング論で、よいインフレ2%を達成するとしたが、ならず、黒田日銀発足9年目にして、今度は悪いインフレが懸念される。日銀の動向に注目が集まっている。

 庶民にすれば、要因が何にせよ、収入が増えない状態で物価だけが上がったのではたまらない。岸田内閣は、賃金引上げ3%のかけ声対策である。実際は、2%弱が定期昇給だから、正味では1%程度だ、3%が実現しても、企業がコストに転嫁しなければならないほどではないだろう。

 だから賃金引上げがさらなる物価上昇要因になるとは考えられない。むしろ、現在の情勢からして、物価は上がる、収入は増えないという関係から、人々の生活内容が低下する懸念が大きい。そうすると、購買力が上昇へ転換するという期待を持てるわけがない。

 賃金が引き続き低迷し、物価が上昇し、円安が続く。原油などエネルギー価格が下がる期待は持ちにくい。アメリカの動きは金利引き上げにある。世界はインフレ傾向が加速する。かくて、長期金利が急騰するようなことが起これば、日本国債が暴落する悪夢が現実化するかもしれない。

 加えて岸田内閣は、新しい資本主義を唱えているが、最大の欠陥は、それがなにを意味しているのか、さっぱりわからない。わからないのは、当方の頭が悪いだけではないだろう。通常国会が、17日に開会する。ぜひ、ご本尊を開帳してもらいたい。

 コロナ感染拡大が、大きな障害であることは疑いない。とはいえ、小池知事の「感染は止める、社会活動は止めない」というありがたいコピーも、まるで正体がわからない。安倍内閣以来、コピーは踊る、現実はますます長期低落の泥沼にはまるという流れが変わらない。

 通常国会の最大の課題は、2022年度予算審議である。しかし、予算計画のカテゴリ―だけでは、前述したような現状に対する根本的な考え方を議論することができない。新しい資本主義の大風呂敷を広げたのは岸田氏である。怪しい大風呂敷を闡明する議論をしなければならない。

 だいたい、与党政治家はいかにも国政を運用しているような公約を発するが、なにがなにしてどうなったかという視点が全面的に欠落している。計画・実行・検証(反省)の流れがまるで見られない。それどころか、安倍内閣以来、計画自体がコピーだけで中身がない。リアリズムとは、あるべき方向性を無視して、場当たり的に対処することではない。場当たり的リアリズムから脱皮できるか否か。通常国会の議論を注視する。