論 考

「人への投資」説の盲点

 「人への投資」は非常に結構である。

 敗戦後のわが産業界では、松下幸之助さんの「製品を作る前に人を作る」という言葉が有名である。

 当時、産業界は人材不足に悩んでいた。働き盛りが戦争で倒れたこともあるが、敗戦までは、まともな人事管理がなく、極論すれば手数を揃えて働かせていただけであった。

 欧米流の人事管理、人材育成の考え方が入ってくるにしたがって、経営者は、これではいかんと考えた。その見本が松下さんの言葉であった。

 「人を育てる・人が育つ」のは時間がかかる。終身雇用にせよ、年功序列にせよ、その観点から、必然的に育った制度である。

 経済大国になって、1980年代にはバブル経済で、慢心と怠惰が支配した。併せて人の大切さを軽視するようになる。90年代以降、産業界はピリッとしたところが少ない。

 「人を大切にする」という経営姿勢、働く人相互の姿勢が弱くなってしまった。「人への投資」の前に、人を大事にしている社会であるかどうか。根元から考えなければならない。

 投資さえすればうまくいくのではない。カネが事業を作るのではない。同様に、カネが人を作るのではないのである。