論 考

コロナ航海の日常

 ヘイエルダール(1914~2002)は、ノルウェーの人類学者・探検家である。インカ文明とポリネシア文明がよく似ているので、南米からポリネシアへの文化伝播を立証するために、1947年に筏船コンティキ号で漂流実験をした。

 筏は、古代に存在した材料で作った。ペルーに自生するバルサ(常緑高木、スペイン語で筏の意味)、松・竹・マングローブ・麻などで作った帆かけ筏である。4月28日にペルーのカヤオ港を出て海流に乗り、後は波任せ風まかせで、8月7日にツアモツ諸島のラロイア環礁で座礁するまで航海した。

 航海距離はざっと8千キロメートル、ポリネシア人の祖先がアメリカ・インディアンである可能性を証明した。

 もちろん通信機器や羅針儀、食糧などの慎重な準備は万端であったが、スエズ運河を航行するわけではないから、焦っても仕方がない。のんびりするというのが大事なポイントだった。で、ヘイエルダールは、まったく航海と無関係の『資本論』を読んでいたのだそうだ。

 コロナ任せの時期、この際、ヘイエルダールの悠々たる冒険精神に学んで、自分らしい悠々たる日常をやりましょう。自粛もまた、それなりに航海みたいだ。