かつて日本帝国陸軍は、「陸軍第一・国家第二」の動物的ともいうべき行動原則をもっていた。
とにかく政治力がある。機密費なるものをふんだんに使って、贈り物攻勢をかけるなんてことは当然である。
一方、わが意向に従わなければ徹底的に排除する。軍隊といえば、軍人と武力装置みたいに考えやすいが、まことに政治家であった。
権力掌握の陸軍・人気の海軍――という感じで、陸海比べれば海軍のほうが恰好よかったのであるが、いかんせん権力志向の陸軍にはかなわない。
「大日本帝国は陸軍を持つ国にあらず、陸軍が支配する国である」という次第であった。
天皇に上奏する際、角を立てず風波を起こさぬように事実をメーキャップするのも当たり前。お上を欺こうとするくらいだから、国民を欺くなんてお茶の子さいさいであった。
要するに、ごまかしたり、嘘をついたりするのは、自信がないからであり、人間的に弱いからだ。