論 考

パンタ・レイ

 12日の新聞朝刊は、森氏が辞任の意向を伝え川渕氏に後任を託し、川渕氏が了解して、森氏を組織委員会の相談役にするという話まで、一斉に報じた。

 詰め腹切って辞任する者が後継者を指名するというのは、社会通念的には奇妙であるが、政界においてはほとんどこれが常識的におこなわれている。

 森氏が小渕氏の後継首相になったときも然り。組織委員会のテンヤワンヤのモデルは永年の自民党政治にある。

 組織委員会の仕事について、具体的事務をこなすのは官僚体制である。組織委員会会長の会長たる所以は、企業にスポンサードしてもらうことであり、それをこなし、さらにコロナ騒動での競技大会延長にもスポンサーを逃がさなかったのだから、おそらく、森氏は大きな自負を抱えているだろうし、それは無理からぬことでもある。

 組織委員会を束ねて怠りなく仕事を進めているのは武藤事務総長である。同氏が、組織委員会活動万端を仕切っているのだから、森氏が最初に辞任を持ちかけるべきは武藤氏である。同氏は、仄聞するに「絶対辞めないでくれ」と森氏に伝えたという。

 建前はとにかく、人事というものは名前が出ると自薦他薦入り乱れて混乱する。森氏も、川渕氏も、もちろん武藤氏もそんなことは百も承知だろう。森氏と川渕氏の会談内容をオープンにした時点で、この話は潰れた。企画者が自分で潰したのである。

 潰れただけではなく、またまた新たな火種をばらまいた。森氏は、いたく「老害」を憤慨しているようだが、超ベテラン政治家が、培った経験を生かせず、ボロボロにならざるを得なかった一連の流れが老害を発生源とするのである。

 まことに引き際は難しいものだ。