論 考

もう一つの世界

 トランプ氏は、4年前の大統領就任式で、集まった人が少ないのに大不満をもった。実際はオバマ大統領の就任式よりもはるかにたくさんの人が集まったと唱えた。トランプ氏の目には、現実とは異なる「もう一つの世界」が見えていた。これが始まりだった。

 昨日、米国下院は票決230対197で、トランプ氏2回目の弾劾訴追決議をおこなった。こんどは、共和党から10人が弾劾訴追賛成に回った。理由は「反乱扇動」であり、大統領がクーデターを画策したとする。

 トランプ氏の支持者にとって、事実はどうでもいい。彼らは勝手に選挙が盗まれたと信じて疑わない。これまた、「もう一つの世界」である。客観的には、きわめてクレージーな事態なのだが、それを信じているのだから、説得が正しくても容易に正すことができない。

 4年間、トランプ氏は「もう一つの世界」を吠え続けてきた。後世まで待たずとも、社会を混乱させ続けた大統領として歴史を刻むのは疑いない。

 人間は、悪意がなくても過ちを犯す。しかし、悪意をもって言葉を駆使する人間が権力を掌握した場合、手がつけられない事態を招く。

 街の居酒屋で、飲んだくれたおっさんがトランプしていても社会的にさしたる害毒をばらまかない。むしろ、周辺の人は反面教師とするだろう。

 権力をもつ人間が、正しい言葉を語らなかったり、嘘をついたり、あいまいな言葉を弄したりするのをみたら、わたしたちは即座に否定しなければならない。これが、トランプ大統領時代の最大の教訓だ。