論 考

危ういかな、思い込み

 今月末の交渉期限切れを目前にして、イギリスのEU離脱に関する、英・EU交渉が深い霧のなかで漂っている。

 13日には、ジョンソン首相とフォンデアライエン委員長が電話協議して、さらに協議して煮詰める合意をしたが、合意断念か、期間を延長して協議を継続するかの瀬戸際にあることは依然として変わらない。

 イギリス財界では絶望的な声が多いという報道もある。ブレグジット投票から4年もかけて、疲労困憊するほどの国内論議をしてきたのに、いったい、この事態はどういうことなのかという切ない悲鳴も出ている。

 ボタンを掛け違えてしまった。そもそも、EU支配がけしからんというのがブレグジット強硬派の気持ちなのだが、離脱に際しては、そのEUと円満に、つまりは「いいとこ取り」したいというのだから、稚拙、欲ボケである。

 その点、ジョンソン首相は、合意なしになっても、かつて7つの海を支配した大英帝国の馬力があれば、大した被害は発生しないと見ているらしい。これは財界人士とは状況認識が全く異なる物語りである。

 わが政府のコロナ対策も、ボタンの掛け違えをしている可能性が高い。命を守るには、経済と感染防止対策のいずれも必要だというのは、当たり前であるが、それは状況認識とは異なる。

 単純化すれば、暴風雨に襲われているのに、儲けにゃならんから、とにかく船を出せというのとよく似ている。嵐が過ぎ去るのを待つというもの、立派な作戦である。欲ボケして、出航した結果、船が沈没してしまえば、嵐が去った後の被害はさらに甚大だ。

 1年近くに及ぶコロナ対策で、われわれは何を学んできたのか。「思いて学ばざればすなわち殆うし」(『論語』)という名言もある。