論 考

呻かずにはいられない

 投票日に自宅待機を呼びかける偽電話が100万件もあったり、Count Every Vote(すべての票を数えよ)というデモがあったり、現職大統領が投票に不正があったと嘘ツイートしたり——

 1831年から32年にかけて米国訪問した、フランス人のトクヴィル(1805~1859)が、米国人は大統領選挙で非常に熱くなると書き残した。まさに。

 1864年11月10日夜、内乱の最中に断行した選挙で再選されたリンカーン(1809~1865)は、祝賀に集まった支持者に対して淡々とスピーチした。

――選挙の戦いは人間性を、その具体的事実のうちに現実に反映させているものです。この場合に生じたことは必ず同様の場合につねにまた生じます。——すなわち人民の政治は、一大内乱の最中にも国家的選挙をとりおこなうことができるということを証明したのであります。――

 リンカーンの知性と理性溢れる冷静沈着な言葉と比較して、トランプ氏の喜劇役者ぶりは、まあ、それはそれで恐るべしではあろうが、こんな芝居を4年間見せられても、なおさらに見続けたいという人々の気持ちを考えると、米国社会の混迷を痛感せずにはいられない。

 他所事として考えてはいけない事例ですねえ。