論 考

古典音楽のひととき

 楽しみにしている東京交響楽団公演に行った。この間、中止があったり、日程変更があったり、さらには予約している席を再度予約し直したり、指揮者や演奏曲の変更もあり、公演主催者は本当に大変だろう。

 こちらは聴きにいくだけだから、まあ、さしたるドラマはないが、なにしろ、わたしはマスクが苦手で嫌いなので、気合を入れて! マスク着用して臨んだ。座席は1つずつ空けてあるので、いつもよりのびのびできる。

 指揮者とコンサートマスター、管楽器はマスクなし。他の演奏者はマスクしておられるので、演奏しにくいのではないかと思うが、みなさまはいつもと同じように気力充実した演奏でおおいに楽しめた。

 今回のお目当ては、ベートーヴェン(1770~1827)の『交響曲第二番ニ長調作品36』、9つあるうちの第二番目である。

 作曲されたのは1802年だが、これを創作していたときのベートーヴェンは難聴が次第に酷くなって、回復の見込みもなく自殺を考えたほどに苦悩していた。それが「ハイリゲンシュタットの遺書」(1802.10.06)に書き残されている。その苦悩の中から創作された。

 「僕はほとんど絶望し、もう少しのところで自殺するところだった。ただ、彼女が――芸術が僕を引き止めてくれた。僕は自分に課せられていると感ぜられる創造を全部やり遂げずにこの世を去ることはできない考えた——」

 わたしが初めてベートーヴェンのピアノソナタ『月光』を聴いてぞくぞくするような心地になったのは、55年前、独身寮の2階の1室で、同室の先輩が聞かせてくださったのだが、この曲は1802年11月12日の創作らしい。まさに、ベートーヴェンが自分自身で再生を誓った直後なのだなあ。

 ベートーヴェンは、プラトンやカントを学んでいたらしい。啓蒙主義の人でもあった。

 心地よく、ひとときを過ごしたのであります。