論 考

1人では歩めない・後戻りはできない

 ジョージア州アトランタのエベネザー・バプテスト教会は、1960年代の公民権運動時代に、マーチン・ルーサー・キング牧師が勤めていた。7月30日、同教会で、人種隔離政策に対する抗議運動を担い続けたジョン・ルイス氏の葬儀がおこなわれ、式典の最後にオバマ氏が登壇した。

 オバマ氏のスピーチは、ルイス氏の追悼にとどまらず、強烈にトランプ批判を述べた。要旨は、トランプ氏が米国の民主主義と、人種間の公正なあり方に対して重大かつ差し迫った脅威であると主張した。

 ルイス氏の葬儀に集まる人々はスピーチに共感したであろうが、前職が現職を痛烈批判したので報道陣は驚いた。CNNのホワイトハウス担当コリンソン記者は、「現代の政治の最も驚くべき瞬間の1つとなった」と記述した。

 スピーチの締め括りは、「それが真の勇気の源となる。互いに攻撃し合うのではなく、互いに向き合うこと。憎悪や分断の種を撒くのではなく、愛と真実を広めること。よりよいアメリカとよりよい世界を作り出すというわれわれの責務を回避するのではなく、そうした責務を喜びと忍耐をもって担い、最愛のコミュニティを、われわれは独りで歩いているのではないと気づくことだ」

 1963年8月28日、ワシントン大行進のクライマックス、リンカーン記念堂前に集まった25万人の人々にキング牧師が語りかけた。「わたしたちは前進あるのみだということを誓わなければならない」、そして、「We cannot walk alone」「We cannot turn back」の言葉が蘇った。