論 考

デモクラシー国家の舵取り

 中国全人代が「香港国家安全維持法」を可決した。本日の社説は、香港の「一国二制度」を「押し潰す」(毎日)、「自由と自治の破壊を憂う」(朝日)、「灯が消える」(読売)という見出しだ。

 法律に引っかかるのは、国家分裂・政権転覆・テロ・外国勢力との結託の4項目で、いちばん重たい刑罰は終身刑である。

 2014年に学生たちが中心に立ち上げた民主政党「Demosisto」(香港衆志)が6月30日に解散を宣言した。Demosistoは、中国からは分離主義者と批判されている。

 抗議の声は、1997年中国への香港返還から50年間は「一国二制度」を国際公約したではないかというわけである。

 まず懸念されるのは、香港のさらなる混乱である。イギリスは、英国海外市民のパスポートをもつ市民30万人についてイギリス市民権取得の道を開く意向を表明し、さらにパスポート申請資格を有する250万人もイギリス市民権の対象として念頭に置いているという。

 ほとんど報道されないが、問題の元々を辿れば、イギリスがアヘン戦争後の1842年に香港島、60年に九竜半島南端部などを奪って租借地としたのが発端である。中国人にしてみれば、それから100年の屈辱時代があったわけで、中国の「内政干渉」という反論には容易ならざる怨念がこもっている。

 民主主義超大国のアメリカで、1党ならぬ1人独裁のトランプ氏を軸として反中国の国際政治経済へ一直線というような選択をするのは賢明ではない。

 わが国も、イージス・アショアの後始末をどうするかみたいな防衛論議にかまけるのではなく、世界的大局観に立った分析・検討をきちんとおこない、単純に声の大きいほうへ従うのではなく、中国からの信頼に耐え得る国際政治の戦略方針を検討してもらいたい。