日々道楽

差別とエリート主義

 ニュージャージー州の名門プリンストン大学には、第28代大統領T・ウッドロー・ウイルソン(在職1913~1921)の名前を冠した学部などの名称があるそうだが、ウイルソンの名称を外すことにした。原因は人種差別的な思考と政策をしたことだ。たとえば公務員から黒人を外したという。

 ウイルソンは、第一次世界大戦の始末として、1918年に民族自決・国際連盟設立・通商障壁撤廃などを含む14か条を提唱して、19年のパリ講和会議に臨んだことで有名である。当の米国は上院でヴェルサイユ条約の批准に失敗したので国際連盟には加盟しなかった。彼は、世界平和への貢献でノーベル賞を授与された。

 彼の主張は、理性こそが強制力を発揮するということにあった。1910年にニュージャージー州知事に立候補して政界に入ったときからの堅い信念である。話せばわかるのであって、戦争を好む人間などいるはずはないという思想に基づいていた。

 国際連盟の思想の鍵は、民族自決である。それぞれの国が独自のナショナリズムを発展させていけば、国際主義の目的=平和を達成できると信じた。

 にもかかわらず、民族自決を主張していたウイルソンが国内で人種差別を進めていたとは(わたしは)知らなかった。ウイルソンが政界に入った年は、奴隷解放からすでに45年過ぎていた。

 彼は側近から、「国際連盟はうまくいくだろうか?」と尋ねられ、「うまくいかないなら、うまくいくようにすればよい」と答えた。もちろん、いかなる理想も制度もそれを実現するためには「うまくいくようにしなければならない」のであるが、理想・制度の構想は、その時点では論理的整合性が担保されなければならない。

 ウイルソンは歴史的には高い評価を得ている。その理想主義は是とするけれども、民族自決と人種差別が彼の頭のなかで矛盾しなかったというのは、もったいない。

 人種差別に限らず、自分自身に強烈なエリート意識をもっていたのであろう。自分が独立自尊の自負と誇りをもつことは大事である。ただし、それが権力を背景にした権威によって増幅されていることを失念すると、大事なことを見落としてしまう。

 昨今、ウイルソンほどのスケールを持ち合わさないが、自分自身に強烈なエリート意識をもっている政治家が多い。わたしたちがそれを見抜く鍵は、人間の平等という見識をもっているかどうかにある。